Big Thief @ YEBISU GARDEN PLACE The Garden Hall 11/17 (THU)
Photo by Kazma Kobayashi
2020年5月に予定されていたものの、新型コロナウイルスの影響で延期・中止となっていた超待望の初来日公演。東京の追加公演オープニング・アクトで登場した食品まつりのパフォーマンスは、サウンドコラージュとノイズ、電子音楽とフォークロア、ダブとアンビエントを横断する抜群の構成力で、ドラムのジェームズ・クリフチェニアが今年発表したソロ『Blood Karaoke』との共鳴を感じずにはいられなかった。
ダメージ・シーンズにタンクトップのエイドリアン・レンカー、タイトな着こなしのバック・ミーク、トレードマークのニットキャップをかぶったジェームズ・クリフチェニア、ド派手なジャンプスーツに身を包んだマックス・オレアルチックと、各人各様の出で立ちでメンバーがステージに現れる。核となる楽曲はあるものの、公演ごとに目まぐるしくセットリストを変えることで知られる彼らだが、この夜のオープニングはいきなり未発表の新曲「Vampire Empire」。ゆったりとしたエイドリアンのアコースティック・ギターのストロークとグルーヴを持つこのナンバーに続き、「Forgotten Eyes」「Masterpiece」という過去の代表曲を続けてプレイし、序盤からステージと客席の距離がぐっと縮まる。
ダイレクトで生々しい冒頭3曲のあと、「Flower of Blood」になるとセクシュアルな暗喩に満ちたリリックにふさわしい、シューゲイズで空間的なアンサンブルに変わる。途中、エイドリアンのギターがトラブルに見舞われるも、演奏を止めず〈Gimme Me Some Time〉と最初のヴァースを即興で歌い続ける間にローディーが機材の交換を終える離れ業を披露。それだけに、リスタート後のエイドリアンのギター・ソロは、なおさら鬼気迫るものだった。
音響的でエクスペリメンタルな展開を引き継ぐように「Terminal Paradise」を幽玄たるアウトロで終えると、エイドリアンのソロより「not a lot, just forever」。甘いメランコリックなコーラスを持つこの曲だが、この流れのなかで聴くと、ピリッとした緊張感が強調される。「Simulation Swarm」ではチューニングともインプロヴィゼーションともとれる長いイントロダクションを爪弾くエイドリアンの姿を、3人のメンバーが固唾を呑んで見守っている。4者間に流れるテレパシーを傍受しているような秘めやかさとともに、バンド内の呼吸をおなじ空間で感じる瞬間が、ビッグ・シーフのライヴの醍醐味であることを確認する。続いて、近年PVAもカヴァーし、もはやインディー・シーンのクラシックと言ってさしつかえない「Not」。エイドリアンの凄まじくエモーショナルなギター・ソロとシャウトにオーディエンスも大きな歓声で応える。
『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』は、録音でのプロダクションとライヴでの印象が最も異なるナンバーと言っていいだろう。清涼感溢れる音源のアレンジメントから、ブレイクビーツを思わせるドラムとざっくりとしたギターのアンサンブルが野性的で、スケールの大きなバンド・アンサンブルに。続く「Sparrow」では切々としたムードから、〈she has the poison inside her〉のヴァースでエイドリアンのヴォーカルが鋭利な刃物のような胸を引き裂かれるようなシャウトに変貌。つばを吐き、エモーションを叩きつけるようなパフォーマンスに度肝を抜かれる。
一転、今度はエイドリアンがアコースティック・ギターに持ち替え、レイドバックしたムードに満ちたオールド・タイムなカントリー・ワルツ「Dried Roses」。こうした振幅の度合いと自由度、バンドの表現力に感嘆せずにはいられない。70年代の薫り漂う「Certainty」では、4人の甘い、オールドタイムなハーモニーが距離の離れた恋人同士のコミュニケーションを優しく描写する。
それまでほとんどMCらしいMCをしなかったが、客席からの“「Real Love」を!”のリクエストに、エイドリアンが返す。“次に演奏するのは、「Real Love」ではありません。でも、〈本当の愛〉についての曲です。愛したい人を愛する、愛する人を愛する、自由に愛する、愛はすべてを越えて存在するから”エイドリアンは微笑みながら“愛したい人を愛することについてのラブ・ソング”と紹介し、この日2曲目となる未発表の新曲「Happy With You」を歌い始める。あなたといるのが幸せ、説明はいらない、そんなリリックのあと、〈Poison Shame〉とリフレインする、あまりに飾り気のない、明快で、美しいナンバーだ。エイドリアンはあるインタビューでembrace(抱擁)という言葉を使っていたが、シンプルなことが言い辛いほど暗い時代に、誰かを愛し、自分自身を受け入れられるようになれるよう、ビッグ・シーフは私たちに自分らしくいられるためのスペースを進んで差し出そうとする。
マックスがパーカッションを持ち、『U.F.O.F.』収録「Cattails」の穏やかなイントロが鳴り響く。バンドが活動以来、そうした意識を持っていたのはこの曲からも明らかだ。〈あなたが泣くとき、理由を知る必要はない〉と語りかけるコーラスにどれだけの人が安らぎを覚えただろう。
本編を締めくくる前、エイドリアンとバックがオーディエンスに“あなた方は最高にクールだ”と日本滞在について名残惜しそうに話す。そしてエイドリアンが「Spud Infinity」のメロディを歌い始めると、客席からも自然と合唱と喝采が起こる。出だしのコーラス〈What's it gonna take?〉が始まった瞬間、オーディエンスが堰を切ったようにステージ前方へ押し寄せる。落ち着いたカントリーなタッチのアルバム・バージョンより、スピード感を増したロックなアレンジメントで、親密さと宇宙的な視座の双方を伝える、その開放感といったら!演奏が終わると、メンバーはピースマークとハートマークを掲げオーディエンスに感謝を伝え、いったんバックステージに降りた。
鳴り止まないアンコールに応えるべく再びステージに登場した4人がプレイするのは、アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』のオープナー「Change」とラストの「Blue Lightning」。〈Would you live forever, never die(死なずに永遠に生きられるか)〉と「I wanna live forever 'til I die(死ぬまで生き続けたい)」、この2曲を繋ぎ円環を閉じる構成に、広大な範囲にちらばったピースが集まり、ぴたりとはまったようなカタルシスがじんわりと押し寄せた。
限りなくロックスター的な仕草を避け、拍手もシンガロングも強制しない。予測不可能なセットリストをもって、エイドリアンの剥き出しの歌を支え、生き物のように変化し、フリーフォームに広げていくバンドのアンサンブル。ガンガン踊りまくっている人、しみじみと聴き入っている人、自然と湧き上がってくる高揚に思い思いの方法で反応するオーディエンスの姿が印象的だった。バンドとオーディエンスが紡ぐ最良の共同体がそこにあったと言っても大袈裟ではないと思う。
Text by 駒井憲嗣
会場では売り切れが続出したツアーTシャツはBEATINK.COMで受注受付!
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13067
Photo by Kazma Kobayashi
2020年5月に予定されていたものの、新型コロナウイルスの影響で延期・中止となっていた超待望の初来日公演。東京の追加公演オープニング・アクトで登場した食品まつりのパフォーマンスは、サウンドコラージュとノイズ、電子音楽とフォークロア、ダブとアンビエントを横断する抜群の構成力で、ドラムのジェームズ・クリフチェニアが今年発表したソロ『Blood Karaoke』との共鳴を感じずにはいられなかった。
ダメージ・シーンズにタンクトップのエイドリアン・レンカー、タイトな着こなしのバック・ミーク、トレードマークのニットキャップをかぶったジェームズ・クリフチェニア、ド派手なジャンプスーツに身を包んだマックス・オレアルチックと、各人各様の出で立ちでメンバーがステージに現れる。核となる楽曲はあるものの、公演ごとに目まぐるしくセットリストを変えることで知られる彼らだが、この夜のオープニングはいきなり未発表の新曲「Vampire Empire」。ゆったりとしたエイドリアンのアコースティック・ギターのストロークとグルーヴを持つこのナンバーに続き、「Forgotten Eyes」「Masterpiece」という過去の代表曲を続けてプレイし、序盤からステージと客席の距離がぐっと縮まる。
ダイレクトで生々しい冒頭3曲のあと、「Flower of Blood」になるとセクシュアルな暗喩に満ちたリリックにふさわしい、シューゲイズで空間的なアンサンブルに変わる。途中、エイドリアンのギターがトラブルに見舞われるも、演奏を止めず〈Gimme Me Some Time〉と最初のヴァースを即興で歌い続ける間にローディーが機材の交換を終える離れ業を披露。それだけに、リスタート後のエイドリアンのギター・ソロは、なおさら鬼気迫るものだった。
音響的でエクスペリメンタルな展開を引き継ぐように「Terminal Paradise」を幽玄たるアウトロで終えると、エイドリアンのソロより「not a lot, just forever」。甘いメランコリックなコーラスを持つこの曲だが、この流れのなかで聴くと、ピリッとした緊張感が強調される。「Simulation Swarm」ではチューニングともインプロヴィゼーションともとれる長いイントロダクションを爪弾くエイドリアンの姿を、3人のメンバーが固唾を呑んで見守っている。4者間に流れるテレパシーを傍受しているような秘めやかさとともに、バンド内の呼吸をおなじ空間で感じる瞬間が、ビッグ・シーフのライヴの醍醐味であることを確認する。続いて、近年PVAもカヴァーし、もはやインディー・シーンのクラシックと言ってさしつかえない「Not」。エイドリアンの凄まじくエモーショナルなギター・ソロとシャウトにオーディエンスも大きな歓声で応える。
『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』は、録音でのプロダクションとライヴでの印象が最も異なるナンバーと言っていいだろう。清涼感溢れる音源のアレンジメントから、ブレイクビーツを思わせるドラムとざっくりとしたギターのアンサンブルが野性的で、スケールの大きなバンド・アンサンブルに。続く「Sparrow」では切々としたムードから、〈she has the poison inside her〉のヴァースでエイドリアンのヴォーカルが鋭利な刃物のような胸を引き裂かれるようなシャウトに変貌。つばを吐き、エモーションを叩きつけるようなパフォーマンスに度肝を抜かれる。
一転、今度はエイドリアンがアコースティック・ギターに持ち替え、レイドバックしたムードに満ちたオールド・タイムなカントリー・ワルツ「Dried Roses」。こうした振幅の度合いと自由度、バンドの表現力に感嘆せずにはいられない。70年代の薫り漂う「Certainty」では、4人の甘い、オールドタイムなハーモニーが距離の離れた恋人同士のコミュニケーションを優しく描写する。
それまでほとんどMCらしいMCをしなかったが、客席からの“「Real Love」を!”のリクエストに、エイドリアンが返す。“次に演奏するのは、「Real Love」ではありません。でも、〈本当の愛〉についての曲です。愛したい人を愛する、愛する人を愛する、自由に愛する、愛はすべてを越えて存在するから”エイドリアンは微笑みながら“愛したい人を愛することについてのラブ・ソング”と紹介し、この日2曲目となる未発表の新曲「Happy With You」を歌い始める。あなたといるのが幸せ、説明はいらない、そんなリリックのあと、〈Poison Shame〉とリフレインする、あまりに飾り気のない、明快で、美しいナンバーだ。エイドリアンはあるインタビューでembrace(抱擁)という言葉を使っていたが、シンプルなことが言い辛いほど暗い時代に、誰かを愛し、自分自身を受け入れられるようになれるよう、ビッグ・シーフは私たちに自分らしくいられるためのスペースを進んで差し出そうとする。
マックスがパーカッションを持ち、『U.F.O.F.』収録「Cattails」の穏やかなイントロが鳴り響く。バンドが活動以来、そうした意識を持っていたのはこの曲からも明らかだ。〈あなたが泣くとき、理由を知る必要はない〉と語りかけるコーラスにどれだけの人が安らぎを覚えただろう。
本編を締めくくる前、エイドリアンとバックがオーディエンスに“あなた方は最高にクールだ”と日本滞在について名残惜しそうに話す。そしてエイドリアンが「Spud Infinity」のメロディを歌い始めると、客席からも自然と合唱と喝采が起こる。出だしのコーラス〈What's it gonna take?〉が始まった瞬間、オーディエンスが堰を切ったようにステージ前方へ押し寄せる。落ち着いたカントリーなタッチのアルバム・バージョンより、スピード感を増したロックなアレンジメントで、親密さと宇宙的な視座の双方を伝える、その開放感といったら!演奏が終わると、メンバーはピースマークとハートマークを掲げオーディエンスに感謝を伝え、いったんバックステージに降りた。
鳴り止まないアンコールに応えるべく再びステージに登場した4人がプレイするのは、アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』のオープナー「Change」とラストの「Blue Lightning」。〈Would you live forever, never die(死なずに永遠に生きられるか)〉と「I wanna live forever 'til I die(死ぬまで生き続けたい)」、この2曲を繋ぎ円環を閉じる構成に、広大な範囲にちらばったピースが集まり、ぴたりとはまったようなカタルシスがじんわりと押し寄せた。
限りなくロックスター的な仕草を避け、拍手もシンガロングも強制しない。予測不可能なセットリストをもって、エイドリアンの剥き出しの歌を支え、生き物のように変化し、フリーフォームに広げていくバンドのアンサンブル。ガンガン踊りまくっている人、しみじみと聴き入っている人、自然と湧き上がってくる高揚に思い思いの方法で反応するオーディエンスの姿が印象的だった。バンドとオーディエンスが紡ぐ最良の共同体がそこにあったと言っても大袈裟ではないと思う。
Text by 駒井憲嗣
会場では売り切れが続出したツアーTシャツはBEATINK.COMで受注受付!
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