昨年サード・アルバム『Colombo』を携えて回ったワールドツアー「Tour Of Planet Earth」で東京2daysを即日完売させ、圧巻のライヴを届けたイギリスのシンガーソングライター、ブルーノ・メジャーが再来日。しかも前回の来日が彼にとって(自国イギリスを除いて)ワールドツアーの初日だったこともあり、今回はさらに洗練されたパフォーマンスが見れるはず、とZepp Shinjukuには平日にも関わらず多くの観客が詰め掛けた。
バンドはギターのアンディ・コルテス、キーボードのピート・リー、ドラムスのスリム・ゲイブリエル、ベースのヘンリー・ジョン・ガイとメジャーの5人編成。スパンコールのジャケットにデニムという出で立ちのメジャーが拍手で迎えられ「The Show Must Go On」でライブが幕を開ける。ゆったりとした、それでいて緊張感のあるグルーヴの中でしなやかに伸びる歌声。もともとセッション・ミュージシャンとして活動していた彼のギタープレイももちろん冴え渡っている。「Like Someone In Love」「Fair-Weather Friend」と緩急を巧みに操って届けると、柔らかな赤いライティングに会場が照らされ、あの素晴らしいコーラスが聞こえてくる。「Wouldn't Mean A Thing」だ。宇多田ヒカルやトム・ミッシュとの仕事でも知られるルーベン・ジェームスと共に書いたというファースト・アルバム『A Song for Every Moon』のオープニング・トラックにして珠玉のラブソングが会場をロマンチックなムードに染め上げる。
さらにメジャーが観客に「ピート・リーに挨拶して」と呼びかけるとキーボーディストのピート・リーによるソロパートへ。その間にメジャーはエレキギターからアコースティック・ギターに持ち替え、リーの演奏に絡み始め、そのまま「Regents Park」へと滑らかに繋がっていく。その優しく親密で甘美な演奏たるや! 永遠に続いて欲しいと願いたくなるような贅沢な時間が過ぎていく。その後メジャーは東京について「みんな知ってると思うけど素晴らしい場所だよね。巨大な芸術作品のように感じるよ」と語り、「The Most Beautiful Thing」をプレイ。今日という日の出会いを祝うようにグッド・メロディーが鳴り響く。
「Tell Her」や「本当の話なんだけど、この曲を録音したとき風邪を引いていてさ、だから風邪を引かないとレコード通りの音にならないんだ」という裏話からプレイされた「Home」、「You Take The High Road」を経て、ライブもすでに中盤。おそらくここがライブの最も激しい瞬間だっただろう。驚異的なドラムソロにバンドが合流していき、会場全体を揺らすアンサンブルに! 呆気にとられているとメジャーはいつの間にかキーボードの位置に移動しており、弾き語りで「A Strange Kind Of Beautiful」を歌う。「ごめん、間違って違うボタンを押しちゃったみたいだ」とメジャーに席を譲り一旦ステージを離れていたリーに助けを求めるお茶目なワンシーンも。
そこから電子ドラムも交えた「Just The Same」、音源よりも長いイントロをつけた「Places We Won't Walk」を届けると、「頼みがあってさ、ベスという友人がオーストラリアに移住することになったからメッセージを送りたいから協力して欲しいんだ」と話し、フロアに「グッバイ!ベス!」と叫ばせ、その様子をメジャーが録画する不思議ながら楽しい時間も。するとメジャーは「ありがとう、お礼の代わりに演奏して欲しい曲はある?」とリクエストを募り、会場から一斉に声が上がる。「“Nothing”? 曲のことだよね。プレイをやめようか。いい?」と冗談を交えて、リクエストに答える形でセカンド・アルバム『To Let a Good Thing Die』から、代表曲でもある「Nothing」を演奏し始める。〝君と一緒なら、何もしなくてもいいんだ"。語りかけるような歌はリリックを自然と耳元に運んでくる。昨年WWD JAPANに掲載されたインタビューでメジャーは「僕の場合は、メロディーはリリックというか言葉の中に存在していると思っている。(中略)だから、僕にとってメロディーは作るものではなく、リリックそのものという認識が近い」と話していたが、この曲を聴いている時は特に言葉がメロディーを作っている感覚が理解できるように感じた。
「Nothing」を終えるとメジャーは一旦袖にはけていたバンドメンバーを勢いよく再び呼び込み、テンプテーションズのカヴァー「Shakey Ground」をファンキーに鳴らし会場を一気に陽気なムードで満たしてみせる。ハードロックやメタルを愛したかつてのメジャーの姿が思い浮かぶようなギターソロも格別だ。メジャーは終始ご機嫌な様子で、サード・アルバムのタイトル曲「Columbo」から、「アンコールはやるつもりだよ」と言いつつ本編を「We Were Never Really Friends」で締めた。
セットリストは彼のディスコグラフィを網羅するような内容で、ゆったりとした曲が多いのは事実だが、ライブで聴くとそこにはダイナミックな起伏が散りばめられていることに改めて気づかされる。そして何より、極めてスウィートでエモーショナル。残念なことにこの日私は1人でライブを観ていたが、もし隣に大切な人がいたら愛の言葉の一つや二つ囁きたくなっていたことだろう。「Easily」、「The End」のアンコールでの2曲もそうだが、メジャーの明るい人柄の滲むMCも手伝って、徹頭徹尾グッド・バイブス、グッド・ミュージック。極上、という言葉の似合う一夜だった。
Text by 高久大輝
バンドはギターのアンディ・コルテス、キーボードのピート・リー、ドラムスのスリム・ゲイブリエル、ベースのヘンリー・ジョン・ガイとメジャーの5人編成。スパンコールのジャケットにデニムという出で立ちのメジャーが拍手で迎えられ「The Show Must Go On」でライブが幕を開ける。ゆったりとした、それでいて緊張感のあるグルーヴの中でしなやかに伸びる歌声。もともとセッション・ミュージシャンとして活動していた彼のギタープレイももちろん冴え渡っている。「Like Someone In Love」「Fair-Weather Friend」と緩急を巧みに操って届けると、柔らかな赤いライティングに会場が照らされ、あの素晴らしいコーラスが聞こえてくる。「Wouldn't Mean A Thing」だ。宇多田ヒカルやトム・ミッシュとの仕事でも知られるルーベン・ジェームスと共に書いたというファースト・アルバム『A Song for Every Moon』のオープニング・トラックにして珠玉のラブソングが会場をロマンチックなムードに染め上げる。
さらにメジャーが観客に「ピート・リーに挨拶して」と呼びかけるとキーボーディストのピート・リーによるソロパートへ。その間にメジャーはエレキギターからアコースティック・ギターに持ち替え、リーの演奏に絡み始め、そのまま「Regents Park」へと滑らかに繋がっていく。その優しく親密で甘美な演奏たるや! 永遠に続いて欲しいと願いたくなるような贅沢な時間が過ぎていく。その後メジャーは東京について「みんな知ってると思うけど素晴らしい場所だよね。巨大な芸術作品のように感じるよ」と語り、「The Most Beautiful Thing」をプレイ。今日という日の出会いを祝うようにグッド・メロディーが鳴り響く。
「Tell Her」や「本当の話なんだけど、この曲を録音したとき風邪を引いていてさ、だから風邪を引かないとレコード通りの音にならないんだ」という裏話からプレイされた「Home」、「You Take The High Road」を経て、ライブもすでに中盤。おそらくここがライブの最も激しい瞬間だっただろう。驚異的なドラムソロにバンドが合流していき、会場全体を揺らすアンサンブルに! 呆気にとられているとメジャーはいつの間にかキーボードの位置に移動しており、弾き語りで「A Strange Kind Of Beautiful」を歌う。「ごめん、間違って違うボタンを押しちゃったみたいだ」とメジャーに席を譲り一旦ステージを離れていたリーに助けを求めるお茶目なワンシーンも。
そこから電子ドラムも交えた「Just The Same」、音源よりも長いイントロをつけた「Places We Won't Walk」を届けると、「頼みがあってさ、ベスという友人がオーストラリアに移住することになったからメッセージを送りたいから協力して欲しいんだ」と話し、フロアに「グッバイ!ベス!」と叫ばせ、その様子をメジャーが録画する不思議ながら楽しい時間も。するとメジャーは「ありがとう、お礼の代わりに演奏して欲しい曲はある?」とリクエストを募り、会場から一斉に声が上がる。「“Nothing”? 曲のことだよね。プレイをやめようか。いい?」と冗談を交えて、リクエストに答える形でセカンド・アルバム『To Let a Good Thing Die』から、代表曲でもある「Nothing」を演奏し始める。〝君と一緒なら、何もしなくてもいいんだ"。語りかけるような歌はリリックを自然と耳元に運んでくる。昨年WWD JAPANに掲載されたインタビューでメジャーは「僕の場合は、メロディーはリリックというか言葉の中に存在していると思っている。(中略)だから、僕にとってメロディーは作るものではなく、リリックそのものという認識が近い」と話していたが、この曲を聴いている時は特に言葉がメロディーを作っている感覚が理解できるように感じた。
「Nothing」を終えるとメジャーは一旦袖にはけていたバンドメンバーを勢いよく再び呼び込み、テンプテーションズのカヴァー「Shakey Ground」をファンキーに鳴らし会場を一気に陽気なムードで満たしてみせる。ハードロックやメタルを愛したかつてのメジャーの姿が思い浮かぶようなギターソロも格別だ。メジャーは終始ご機嫌な様子で、サード・アルバムのタイトル曲「Columbo」から、「アンコールはやるつもりだよ」と言いつつ本編を「We Were Never Really Friends」で締めた。
セットリストは彼のディスコグラフィを網羅するような内容で、ゆったりとした曲が多いのは事実だが、ライブで聴くとそこにはダイナミックな起伏が散りばめられていることに改めて気づかされる。そして何より、極めてスウィートでエモーショナル。残念なことにこの日私は1人でライブを観ていたが、もし隣に大切な人がいたら愛の言葉の一つや二つ囁きたくなっていたことだろう。「Easily」、「The End」のアンコールでの2曲もそうだが、メジャーの明るい人柄の滲むMCも手伝って、徹頭徹尾グッド・バイブス、グッド・ミュージック。極上、という言葉の似合う一夜だった。
Text by 高久大輝