Photo by Sotaro Goto
CHVRCHES @ Zepp Haneda 1/11 (WED)
「いつもは何でもギリギリで話し合いをしてバタバタ準備してるんだけど、今回はだいぶ前からちゃんと計画を練っているの。みんながわざわざお金を払って観に来てくれるショウなんだから、特別な経験をさせてあげたい。だから今頑張っているところ」。
これは、2021年7月に最新アルバム『Screen Violence』のリリースに先立って行われたインタヴューでの、来たるツアーに関するローレン・メイベリーの発言だ。あれから1年半が経ってようやく実現したチャーチズの4年ぶりのジャパン・ツアーの初日、東京・Zepp Haneda公演は、まさに彼女の予告通り、特別な体験と呼んで差し支えないだろう。ポップでエモーショナルなだけでなくダークでラウドでアグレッシヴな表情も身に付け、コンセプチュアルなアプローチのライヴ・パフォーマンスに挑んだバンドの進化には、目を見張るばかりだった。
そう、今回のチャーチズは『Screen Violence』のテーマであるホラー映画の要素を、様々な形でステージに反映。開演に先立って流れた、映画『エルム街の悪夢』のサントラのメイン・タイトルが妖しい空気で会場を満たしたところで、ローレン、マーティン・ドハーティ、イアン・クック、そしてツアー・ドラマーのジョニー・スコットがステージに姿を見せ、『Screen Violence』からのファースト・シングル「He Said/ She Said」でショウをスタートする。ローレンがまとっていた白いミニドレスは、MCによると、楽しみにしていた日本公演のために特別に用意したものなのだとか。
日本のために特別に用意したと言えば、現時点ではほとんどライヴでプレイしていない「Death Stranding」も然り。ご存知、小島秀夫が手掛けた同名のゲームに提供した、書き下ろし曲だ。そのほか、『Screen Violence』の収録曲を中心に、デビュー・シングル「The Mother We Share」から「Never Say Die」まで計4枚のアルバムからバランス良く代表曲を網羅して、18曲/約90分のセットを構成。何しろ2021日8月にツアーを始めてからすでに100公演以上をこなしているだけに、バンド・アンサンブルの精緻さには非の打ちどころがなく、最初の3作品の曲にもアグレッシヴな今のモードでアップデートした印象を受けた。
が、何よりも新鮮だったのはやはりギターの存在感だ。そもそも『Screen Violence』ではギターを多用し、ポストパンク色を強めていただけに、イアンとマーティンがギターとベースを手にしてその実力を見せつける場面が一気に増え、多くの曲を4ピースのギターロック・バンドとして演奏。徹底して硬質なエレクトロニック・サウンドと幽玄なギター・サウンドの間を、フレキシブルに行き来しながらショウを進める。逆に変わっていないのは、甘く、強く、澄み切ったローレンのヴォーカル。今回も全くブレることなく終始テンションをキープして、オーディエンスにフォーカスを与える。
そんな彼女たちの背後には、『Screen Violence』のアートワークやPVを手掛けたアーティスト、スコット・キエナンの協力を得て制作した映像が映し出され、音と映像が完全にシンクロ。言うまでもなくこれらの多くがホラー・テイストで、アブストラクトなヴィジュアルの中に、炎や人影や墓石のシルエットが見え隠れする。そして、映像に加えて衣装の効果も相俟って、不穏なムードが最高潮に達したのが、終盤の「Final Girl」だ。タイトルは、ホラー映画の中で最後まで生き残る若い女性のキャラクターを指しており、彼女が逃げまどうのだろう暗い森の映像を背景に、ローレンはずばり“FINAL GIRL”とプリントされた白いTシャツと、カットオフしたショートパンツという出で立ちで登場。続くアンコールでは、そのTシャツに血が飛び散り、手が赤く染まった状態で現れたのだが、ラストの「Clearest Blue」でオーディエンスを煽って会場をクラブ空間へと変えて、自らも血まみれで無邪気に踊っている彼女の雄姿はまさしく、殺人鬼から逃げ切ったサバイバーのそれだ。
さらに終演後、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「Bad Moon Rising」が、まるでエンドロールであるかのように会場に響き渡る。考えてみるとこれも楽し気なメロディとは裏腹に、何か良からぬことが起きそうな予感を歌う、穏やかならない曲。ここまでこだわり抜いた3人に、改めて拍手を送らずにいられなかった。
Text by 新谷洋子
CHVRCHES @ Zepp Haneda 1/11 (WED)
「いつもは何でもギリギリで話し合いをしてバタバタ準備してるんだけど、今回はだいぶ前からちゃんと計画を練っているの。みんながわざわざお金を払って観に来てくれるショウなんだから、特別な経験をさせてあげたい。だから今頑張っているところ」。
これは、2021年7月に最新アルバム『Screen Violence』のリリースに先立って行われたインタヴューでの、来たるツアーに関するローレン・メイベリーの発言だ。あれから1年半が経ってようやく実現したチャーチズの4年ぶりのジャパン・ツアーの初日、東京・Zepp Haneda公演は、まさに彼女の予告通り、特別な体験と呼んで差し支えないだろう。ポップでエモーショナルなだけでなくダークでラウドでアグレッシヴな表情も身に付け、コンセプチュアルなアプローチのライヴ・パフォーマンスに挑んだバンドの進化には、目を見張るばかりだった。
そう、今回のチャーチズは『Screen Violence』のテーマであるホラー映画の要素を、様々な形でステージに反映。開演に先立って流れた、映画『エルム街の悪夢』のサントラのメイン・タイトルが妖しい空気で会場を満たしたところで、ローレン、マーティン・ドハーティ、イアン・クック、そしてツアー・ドラマーのジョニー・スコットがステージに姿を見せ、『Screen Violence』からのファースト・シングル「He Said/ She Said」でショウをスタートする。ローレンがまとっていた白いミニドレスは、MCによると、楽しみにしていた日本公演のために特別に用意したものなのだとか。
日本のために特別に用意したと言えば、現時点ではほとんどライヴでプレイしていない「Death Stranding」も然り。ご存知、小島秀夫が手掛けた同名のゲームに提供した、書き下ろし曲だ。そのほか、『Screen Violence』の収録曲を中心に、デビュー・シングル「The Mother We Share」から「Never Say Die」まで計4枚のアルバムからバランス良く代表曲を網羅して、18曲/約90分のセットを構成。何しろ2021日8月にツアーを始めてからすでに100公演以上をこなしているだけに、バンド・アンサンブルの精緻さには非の打ちどころがなく、最初の3作品の曲にもアグレッシヴな今のモードでアップデートした印象を受けた。
が、何よりも新鮮だったのはやはりギターの存在感だ。そもそも『Screen Violence』ではギターを多用し、ポストパンク色を強めていただけに、イアンとマーティンがギターとベースを手にしてその実力を見せつける場面が一気に増え、多くの曲を4ピースのギターロック・バンドとして演奏。徹底して硬質なエレクトロニック・サウンドと幽玄なギター・サウンドの間を、フレキシブルに行き来しながらショウを進める。逆に変わっていないのは、甘く、強く、澄み切ったローレンのヴォーカル。今回も全くブレることなく終始テンションをキープして、オーディエンスにフォーカスを与える。
そんな彼女たちの背後には、『Screen Violence』のアートワークやPVを手掛けたアーティスト、スコット・キエナンの協力を得て制作した映像が映し出され、音と映像が完全にシンクロ。言うまでもなくこれらの多くがホラー・テイストで、アブストラクトなヴィジュアルの中に、炎や人影や墓石のシルエットが見え隠れする。そして、映像に加えて衣装の効果も相俟って、不穏なムードが最高潮に達したのが、終盤の「Final Girl」だ。タイトルは、ホラー映画の中で最後まで生き残る若い女性のキャラクターを指しており、彼女が逃げまどうのだろう暗い森の映像を背景に、ローレンはずばり“FINAL GIRL”とプリントされた白いTシャツと、カットオフしたショートパンツという出で立ちで登場。続くアンコールでは、そのTシャツに血が飛び散り、手が赤く染まった状態で現れたのだが、ラストの「Clearest Blue」でオーディエンスを煽って会場をクラブ空間へと変えて、自らも血まみれで無邪気に踊っている彼女の雄姿はまさしく、殺人鬼から逃げ切ったサバイバーのそれだ。
さらに終演後、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「Bad Moon Rising」が、まるでエンドロールであるかのように会場に響き渡る。考えてみるとこれも楽し気なメロディとは裏腹に、何か良からぬことが起きそうな予感を歌う、穏やかならない曲。ここまでこだわり抜いた3人に、改めて拍手を送らずにいられなかった。
Text by 新谷洋子