photo by 古渓一道 / Kazumichi Kokei
photo by 古渓一道 / Kazumichi Kokei
4AD presents Revue
DEERHUNTER, GANG GANG DANCE and EX:RE
SPECIAL GUEST DJ: 4AD LABEL BOSS SIMON HALLIDAY
“この美学を共有したいんだ!”
そんな見えない、巨大な柱がドーンと会場中央にぶち建てられたイベントだった。
いまでは現実感はないだろうが、インディ・レーベルが大きな存在感と影響力を持った時代、イギリスの4ADは、ラフ・トレード、ファクトリーと並ぶ象徴的なレーベルだった。コクトー・ツインズ、バウハウス、ディス・モータル・コイル、デッド・カン・ダンス、ピクシーズ等々、語り出すとキリがないが、そんな魅力溢れるアーティストたちを送り続けてきた4ADが40周年。
現在のレーベルを代表するバンドであり、ちょうど8枚目のアルバム『ホワイ・ハズント・エヴリシング・オールレディ・ディサピアード?』をリリースしたばかりのディアハンター、NYならではのハイパー・ミクスチャーをくり広げるギャング・ギャング・ダンス、さらにUKの3人組ドーターの紅一点、エレナ・トンラによるプロジェクト、エクス:レイという興味の尽きないアーティストたちによる祝祭(!?)が大阪(21日)、名古屋(22日)に続き23日、東京で開催された。
イベントは現レーベル代表サイモン・ハリデーのDJでスタート。多彩なプレイリストで観客を暖めたところで最初のアクト、ドーターのエレナ・トンラのプロジェクト、エクス:レイが登場する。4ADならではの耽美と頽廃が色濃く漂うアルバム『エクス:レイ』を発表したばかりという絶好のタイミングでのライヴだが、1曲目でチェロが効果的に響く、新作のなかでも印象深い「New York」で空気感をすぐに作りだした。エレナも加えた四人編成で、決して音数は多くはないが、いろいろ持ち替えながら吟味された音で彼女の繊細な世界を丹念に色づけ、最後の抜群に良かった「Romance」でのドラマチックな空間は、このイベントにはぴったり。
コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスたちが懸命に磨き上げていた美意識が、こうして受け継がれ、この時代にふさわしい響きを奏でることに、長年見てきた一人として感動的な思いがわき起こってくる。
いかにも4ADらしいクールな熱気が会場を包む中で登場してきたのは、ギャング・ギャング・ダンス。衝撃的だった『セイント・ディンフナ』がもう10年も前のこと。昨年の『カズアシタ』で聴かせた、どこか既視感がありながら、決して特定出来ない無国籍感や、エレクトロニクスとトライバル・パーカッションが作り上げる無二の世界が特徴のグループは代名詞的な「Vacuum」でスタート。
プリミティヴなパーカッションで一気にトランス感覚が高められ、その快感がシャーマニックなリジー・ボウガツォスによって、次のステージに導かれていく。ディスクとは違った高揚感はライヴならではで、それが深部からのうねりとなって会場に広がるのが何とも心地良い。エスニック・ビート的でもあるが、その枠だけに収めることなど出来ない奔放さが、至る所から吹き出し、ときにサイケデリックなものを引き連れてきたり、クラウト・ロックに吹き飛ばしたりと、すべて強靱な音をベースにくり広げられていく。どんなことも仮想体験出来てしまう、そんな時代だからこそ、この場でしかない得られない音体験をするとはどういうことなのか、そんなことを発し続けるステージだった。
まったく表面的には違っていながら、どこかで深く共鳴し合う2つのアクトに満足と興奮を覚えながら迎えるのは、『ホワイ・ハズント・エヴリシング・オールレディ・ディサピアード?』をリリースしたばかりのディアハンター。DJサイモンによって、今回のイベント、レーベルの歴史、参加バンド、そして観客へのオマージュとしてディス・モータル・コイルの「Song Of Siren」が流される最高のシチュエイションのなか、サングラスにスーツ姿のブラッドフォード・コックス率いるディアハンターが登場する。
<僕が子供の頃、音楽にハマり始めて、最初に夢中になったレーベルが4ADだった>なんていう嬉しい発言もあるブラッドフォードがブライアン・フェリーばりのポーズをキメるなか「Lake Somerset」でバンドをドライヴさせていくのが、なんともカッコ良い。さらに立て続けに「Death In Midsummer」「No One's Sleeping」と新作ナンバーをぶつけてくるが、ステージ上の機材セットが不調で、かなり苛立った様子。
しかしそれでも特別なショーということを意識してか、何とかまとめていく姿は、最初に来日した頃の内省的なものとは大違いで、新作中、もっとも親しみやすいタイトル・トラックあたりからはバンドもグイグイとスウィングして、観客を巻き込んでいく。
<僕にとって4ADは、音楽の内容を知らなくても4ADだったら全てを買う、というレーベルでその内容にがっかりさせられたことはほとんどなかった>というほど影響を受けてきた彼こそこのイベントを締めくくるにふさわしかったし、参加者のすべてに大満足の炎を点してくれた。
アンコール代わりには“4ADトラベリン・バンド”と名付けられた3バンドのメンバーたちによる大セッション大会で、歴史的なレーベルにふさわしい、深い、深い充足感に満ちた祝祭の一夜だった。
大鷹俊一
4AD presents Revue
“この美学を共有したいんだ!”DEERHUNTER, GANG GANG DANCE and EX:RE
SPECIAL GUEST DJ: 4AD LABEL BOSS SIMON HALLIDAY
そんな見えない、巨大な柱がドーンと会場中央にぶち建てられたイベントだった。
いまでは現実感はないだろうが、インディ・レーベルが大きな存在感と影響力を持った時代、イギリスの4ADは、ラフ・トレード、ファクトリーと並ぶ象徴的なレーベルだった。コクトー・ツインズ、バウハウス、ディス・モータル・コイル、デッド・カン・ダンス、ピクシーズ等々、語り出すとキリがないが、そんな魅力溢れるアーティストたちを送り続けてきた4ADが40周年。
現在のレーベルを代表するバンドであり、ちょうど8枚目のアルバム『ホワイ・ハズント・エヴリシング・オールレディ・ディサピアード?』をリリースしたばかりのディアハンター、NYならではのハイパー・ミクスチャーをくり広げるギャング・ギャング・ダンス、さらにUKの3人組ドーターの紅一点、エレナ・トンラによるプロジェクト、エクス:レイという興味の尽きないアーティストたちによる祝祭(!?)が大阪(21日)、名古屋(22日)に続き23日、東京で開催された。
イベントは現レーベル代表サイモン・ハリデーのDJでスタート。多彩なプレイリストで観客を暖めたところで最初のアクト、ドーターのエレナ・トンラのプロジェクト、エクス:レイが登場する。4ADならではの耽美と頽廃が色濃く漂うアルバム『エクス:レイ』を発表したばかりという絶好のタイミングでのライヴだが、1曲目でチェロが効果的に響く、新作のなかでも印象深い「New York」で空気感をすぐに作りだした。エレナも加えた四人編成で、決して音数は多くはないが、いろいろ持ち替えながら吟味された音で彼女の繊細な世界を丹念に色づけ、最後の抜群に良かった「Romance」でのドラマチックな空間は、このイベントにはぴったり。
コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスたちが懸命に磨き上げていた美意識が、こうして受け継がれ、この時代にふさわしい響きを奏でることに、長年見てきた一人として感動的な思いがわき起こってくる。
いかにも4ADらしいクールな熱気が会場を包む中で登場してきたのは、ギャング・ギャング・ダンス。衝撃的だった『セイント・ディンフナ』がもう10年も前のこと。昨年の『カズアシタ』で聴かせた、どこか既視感がありながら、決して特定出来ない無国籍感や、エレクトロニクスとトライバル・パーカッションが作り上げる無二の世界が特徴のグループは代名詞的な「Vacuum」でスタート。
プリミティヴなパーカッションで一気にトランス感覚が高められ、その快感がシャーマニックなリジー・ボウガツォスによって、次のステージに導かれていく。ディスクとは違った高揚感はライヴならではで、それが深部からのうねりとなって会場に広がるのが何とも心地良い。エスニック・ビート的でもあるが、その枠だけに収めることなど出来ない奔放さが、至る所から吹き出し、ときにサイケデリックなものを引き連れてきたり、クラウト・ロックに吹き飛ばしたりと、すべて強靱な音をベースにくり広げられていく。どんなことも仮想体験出来てしまう、そんな時代だからこそ、この場でしかない得られない音体験をするとはどういうことなのか、そんなことを発し続けるステージだった。
まったく表面的には違っていながら、どこかで深く共鳴し合う2つのアクトに満足と興奮を覚えながら迎えるのは、『ホワイ・ハズント・エヴリシング・オールレディ・ディサピアード?』をリリースしたばかりのディアハンター。DJサイモンによって、今回のイベント、レーベルの歴史、参加バンド、そして観客へのオマージュとしてディス・モータル・コイルの「Song Of Siren」が流される最高のシチュエイションのなか、サングラスにスーツ姿のブラッドフォード・コックス率いるディアハンターが登場する。
<僕が子供の頃、音楽にハマり始めて、最初に夢中になったレーベルが4ADだった>なんていう嬉しい発言もあるブラッドフォードがブライアン・フェリーばりのポーズをキメるなか「Lake Somerset」でバンドをドライヴさせていくのが、なんともカッコ良い。さらに立て続けに「Death In Midsummer」「No One's Sleeping」と新作ナンバーをぶつけてくるが、ステージ上の機材セットが不調で、かなり苛立った様子。
しかしそれでも特別なショーということを意識してか、何とかまとめていく姿は、最初に来日した頃の内省的なものとは大違いで、新作中、もっとも親しみやすいタイトル・トラックあたりからはバンドもグイグイとスウィングして、観客を巻き込んでいく。
<僕にとって4ADは、音楽の内容を知らなくても4ADだったら全てを買う、というレーベルでその内容にがっかりさせられたことはほとんどなかった>というほど影響を受けてきた彼こそこのイベントを締めくくるにふさわしかったし、参加者のすべてに大満足の炎を点してくれた。
アンコール代わりには“4ADトラベリン・バンド”と名付けられた3バンドのメンバーたちによる大セッション大会で、歴史的なレーベルにふさわしい、深い、深い充足感に満ちた祝祭の一夜だった。
大鷹俊一