Photo by Masashi Yukimoto
Kitty, Daisy & Louis 2023/10/19 @Shibuya Club Quatrro
ファースト・アルバムのリリースから15周年という記念すべき今年、キティー・デイジー・アンド・ルイスの5年ぶりの来日が実現した。日本独自の編集盤『Singles Collection』のリリースと、1枚目から4枚目までのLPも再発され、彼らの軌跡を確認する絶好のタイミングとなった。往年のファンから若いオーディエンスまでロックンロール・フリークですし詰め状態の渋谷クラブ・クアトロ公演は、ルイスのゴキゲンなピアノを皮切りに往年のダンスホールが目に浮かぶインストゥルメンタル「Paan Boogie Man」で幕を開けた。続いてルイスがギターを持ちフロントに立ち、キティーが鳴らすブルースハープとの掛け合いがスリリングな「It Ain't Your Business」へ。曲ごとにヴォーカルと楽器を入れ替える演奏スタイルは健在で、それまでドラムセットに座っていたデイジーがキティーとともにフロントに立ちタンバリンを叩きながら歌う「Bitchin' in the Kitchen」はたまらなくソウルフルだ。
ルイスが久方ぶりの来日にあたりオーディエンスに感謝を述べ「Baby Bye Bye」に入ると、リラクシンなレゲエのグルーヴが会場を包み込む。『Singles Collection』には、この曲のファーサイドのスリムキッド・トレをフィーチャーしたリミックスも収録されていたのが嬉しかったが、やはり生で聴くこのゆったりとしたグルーヴは格別だ。キティーも「夢が叶った!」と久方ぶりの日本でのパフォーマンスに興奮している様子で、「最初に日本に来てから15年が経った。古い曲にたくさんの楽しい思い出がある。これもそのひとつで、とても思い出深い。最初のギグでこの曲を演奏した」と感慨深げに語り、「(Baby) Hold Me Tight」を歌う。デイジーが弾くシロフォンがチャーミングなジャイヴで、これまでも多くのダンスフロアを沸かせてきたこの曲でフロアがさらに沸き立つ。
その後もルイスのワイルドなヴォーカルが映える「Buggin' Blues」、デイジーがギターとヴォーカルをとるルイ・ジョーダンのカヴァー「Ooo Wee」とファースト・アルバムからのナンバーが続く。90年代以降のネオ・スウィング経由というよりも、いきなりリズム・アンド・ブルースとロックンロールの原点を掘り始めてしまったような彼らのスタイルはデビュー当時衝撃だったが、オーセンティックなんだけれど新しい、彼らの音楽の核がデビューの時点で既に完成していたことにあらためて驚かされる。
「ラブソングを聴きたい?今晩恋している人はいる?」とキティが呼びかけ、2017年の『Superscope』収録で、クリスマス・シングルとしてもリリースされた「Just One Kiss」が始まると、頭上のミラーボールが回り、たちまちロマンティックなムードに。ルイスがこれもまた思い出深い曲として挙げた「I'm Coming Home」は、コロナ禍のロックダウン期間中に自らのスタジオDurham Soundの裏にある庭でライヴ録音された映像が配信されたことも記憶に新しい。誰もが隔離を余儀なくされた時期、自分の家に帰ることを望むリリックで多くのリスナーを勇気づけたナンバーで、「実は曲の終わりに庭の扉が閉まる音が聞こえるんだ」と彼は明かしてくれた。
レイドバックしたムードから一転、「踊りたい?」というキティーのMCに続き、「Turkish Delight」のアップリフティングなスカのリズムが始まると、クアトロの客席の熱気が再び高まる。キティがドラムを担当し、ファンキーなドラムブレイクを披露する「Don't Make a Fool Out of Me」、ブルージーな「Good Looking Woman」、そしてデイジーがヴォーカルをとる、70年代シンガー・ソングライター的なソングクラフトと情熱的な歌詞が胸に迫る「No Action」。この中盤から後半への流れは、彼らのルーツ・ミュージックに対する現代的距離感を再確認させてくれた。「Developer's Disease」に入る前、ルイスは古い建物や通りの残るロンドンのケンティッシュ・タウン出身であること、生地の美しさが土地開発により失われていくことを嘆いていたが、シンプルなブルースにそうした思いを投影することも彼らなりのルーツに対するリスペクトの一貫であろう。
本編最後となる「Going Up the Country」では、デイジーがフロントでスタンディングで叩くスネアに、オーディエンスの手拍子も加わり、得も言われぬ一体感が訪れる。キャンド・ヒートのオリジナルをジャイビンに解釈するセンスは今聴いても新鮮だし、ロカビリー、ジャズ、R&Bなど様々なルーツ・ミュージックを網羅しながら、決してオールドタイムなだけでは終わらないモダンな感覚をヴィンテージな手触りに吹き込む手腕は心憎いばかりだ。
アンコールを求める歓声が止まぬなか再びステージに登場した彼ら。「ブギの用意はいい?」の一声のあとプレイされた「Say You'll Be Mine」は、音源でも印象深かったキティのブルースハープのパートが引き伸ばされ、異様にサイケデリックな音像に幻惑される。サポートを務めるリズムギターのダディ・グラッツこと父のグラッツ・ダーハムとベースのD.P.ウィリアムスを再びステージに迎え、オーディエンスの興奮を静めるようにキティが「何が聞きたい?」と問いかける。「早い曲?スローな曲?ではほんとうに速い曲を」と、デビュー曲「Mean Son of a Gun」が始まると、場内の熱狂が最高潮に達する。すべての演奏を終え、並んで挨拶をするメンバーに万雷の拍手が送られる。デビュー作から15周年にふさわしいグレイテイスト・ヒッツ的セットリストにオーディエンスも大満足、終演後も「カッコよかった!」という声がいたるところから聞こえてきた。キティーが終盤のMCで口にした「ロックンロールし続けて!」という言葉通りの、ロックンロールを愛する人同士が繋がることのできるエモーショナルな一夜だった。
Text by 駒井憲嗣
Apple Music
https://music.apple.com/jp/playlist/kitty-daisy-lewis-japan-tour-23/pl.u-76oNbobuWMoljA8
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https://open.spotify.com/playlist/20PDIc1dlndqzhHG5TAbxT
Kitty, Daisy & Louis 2023/10/19 @Shibuya Club Quatrro
ファースト・アルバムのリリースから15周年という記念すべき今年、キティー・デイジー・アンド・ルイスの5年ぶりの来日が実現した。日本独自の編集盤『Singles Collection』のリリースと、1枚目から4枚目までのLPも再発され、彼らの軌跡を確認する絶好のタイミングとなった。往年のファンから若いオーディエンスまでロックンロール・フリークですし詰め状態の渋谷クラブ・クアトロ公演は、ルイスのゴキゲンなピアノを皮切りに往年のダンスホールが目に浮かぶインストゥルメンタル「Paan Boogie Man」で幕を開けた。続いてルイスがギターを持ちフロントに立ち、キティーが鳴らすブルースハープとの掛け合いがスリリングな「It Ain't Your Business」へ。曲ごとにヴォーカルと楽器を入れ替える演奏スタイルは健在で、それまでドラムセットに座っていたデイジーがキティーとともにフロントに立ちタンバリンを叩きながら歌う「Bitchin' in the Kitchen」はたまらなくソウルフルだ。
ルイスが久方ぶりの来日にあたりオーディエンスに感謝を述べ「Baby Bye Bye」に入ると、リラクシンなレゲエのグルーヴが会場を包み込む。『Singles Collection』には、この曲のファーサイドのスリムキッド・トレをフィーチャーしたリミックスも収録されていたのが嬉しかったが、やはり生で聴くこのゆったりとしたグルーヴは格別だ。キティーも「夢が叶った!」と久方ぶりの日本でのパフォーマンスに興奮している様子で、「最初に日本に来てから15年が経った。古い曲にたくさんの楽しい思い出がある。これもそのひとつで、とても思い出深い。最初のギグでこの曲を演奏した」と感慨深げに語り、「(Baby) Hold Me Tight」を歌う。デイジーが弾くシロフォンがチャーミングなジャイヴで、これまでも多くのダンスフロアを沸かせてきたこの曲でフロアがさらに沸き立つ。
その後もルイスのワイルドなヴォーカルが映える「Buggin' Blues」、デイジーがギターとヴォーカルをとるルイ・ジョーダンのカヴァー「Ooo Wee」とファースト・アルバムからのナンバーが続く。90年代以降のネオ・スウィング経由というよりも、いきなりリズム・アンド・ブルースとロックンロールの原点を掘り始めてしまったような彼らのスタイルはデビュー当時衝撃だったが、オーセンティックなんだけれど新しい、彼らの音楽の核がデビューの時点で既に完成していたことにあらためて驚かされる。
「ラブソングを聴きたい?今晩恋している人はいる?」とキティが呼びかけ、2017年の『Superscope』収録で、クリスマス・シングルとしてもリリースされた「Just One Kiss」が始まると、頭上のミラーボールが回り、たちまちロマンティックなムードに。ルイスがこれもまた思い出深い曲として挙げた「I'm Coming Home」は、コロナ禍のロックダウン期間中に自らのスタジオDurham Soundの裏にある庭でライヴ録音された映像が配信されたことも記憶に新しい。誰もが隔離を余儀なくされた時期、自分の家に帰ることを望むリリックで多くのリスナーを勇気づけたナンバーで、「実は曲の終わりに庭の扉が閉まる音が聞こえるんだ」と彼は明かしてくれた。
レイドバックしたムードから一転、「踊りたい?」というキティーのMCに続き、「Turkish Delight」のアップリフティングなスカのリズムが始まると、クアトロの客席の熱気が再び高まる。キティがドラムを担当し、ファンキーなドラムブレイクを披露する「Don't Make a Fool Out of Me」、ブルージーな「Good Looking Woman」、そしてデイジーがヴォーカルをとる、70年代シンガー・ソングライター的なソングクラフトと情熱的な歌詞が胸に迫る「No Action」。この中盤から後半への流れは、彼らのルーツ・ミュージックに対する現代的距離感を再確認させてくれた。「Developer's Disease」に入る前、ルイスは古い建物や通りの残るロンドンのケンティッシュ・タウン出身であること、生地の美しさが土地開発により失われていくことを嘆いていたが、シンプルなブルースにそうした思いを投影することも彼らなりのルーツに対するリスペクトの一貫であろう。
本編最後となる「Going Up the Country」では、デイジーがフロントでスタンディングで叩くスネアに、オーディエンスの手拍子も加わり、得も言われぬ一体感が訪れる。キャンド・ヒートのオリジナルをジャイビンに解釈するセンスは今聴いても新鮮だし、ロカビリー、ジャズ、R&Bなど様々なルーツ・ミュージックを網羅しながら、決してオールドタイムなだけでは終わらないモダンな感覚をヴィンテージな手触りに吹き込む手腕は心憎いばかりだ。
アンコールを求める歓声が止まぬなか再びステージに登場した彼ら。「ブギの用意はいい?」の一声のあとプレイされた「Say You'll Be Mine」は、音源でも印象深かったキティのブルースハープのパートが引き伸ばされ、異様にサイケデリックな音像に幻惑される。サポートを務めるリズムギターのダディ・グラッツこと父のグラッツ・ダーハムとベースのD.P.ウィリアムスを再びステージに迎え、オーディエンスの興奮を静めるようにキティが「何が聞きたい?」と問いかける。「早い曲?スローな曲?ではほんとうに速い曲を」と、デビュー曲「Mean Son of a Gun」が始まると、場内の熱狂が最高潮に達する。すべての演奏を終え、並んで挨拶をするメンバーに万雷の拍手が送られる。デビュー作から15周年にふさわしいグレイテイスト・ヒッツ的セットリストにオーディエンスも大満足、終演後も「カッコよかった!」という声がいたるところから聞こえてきた。キティーが終盤のMCで口にした「ロックンロールし続けて!」という言葉通りの、ロックンロールを愛する人同士が繋がることのできるエモーショナルな一夜だった。
Text by 駒井憲嗣
Apple Music
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