Photo Credit: Kazma Kobayashi
Romy @ FUJI ROCK FESTIVAL '23 7/29 (SAT)
この夜RomyはDJブースのなかから何度も何度も胸の前にハートマークを作り、オーディエンスに手を振った。Jamie xx、Oliver Simに続いてソロキャリアの道を歩み始めた彼女の満を持してのファースト・アルバム『Mid Air』リリースを前にして、The xxとして何度もステージに立ったフジロックで、彼女が初めてのソロアクトでDJセットを選んだのは必然と言えるし、彼女が新作で伝えたかったメッセージにふさわしい。
フジロック2日目深夜を祝祭の場に変えたDJセットは、アルバム収録曲「Weightless」でスタート。Kings Of Tomorrow「Finally」といったハウス・クラシック、Binary Finary「1999」に代表されるトランス、そこに前日出演したOvermonoの「So U Kno」、Peggy Gou「(It Goes Like) Nanana」を挿し込んだり、ポップとアンダーグラウンドの間を行き来し進んでいく。その多幸感に満ちた流れには、The xxでのクールでスタイリッシュな佇まいとは趣を変え、カジュアルなTシャツ姿でブース内で踊りながらプレイする姿と同じく、穏やかなパーソナリティがにじみ出ている。決してマニアックになりすぎず、誰もが知っている定番の曲を新鮮に聴かせるスキルは、かつてロンドンのクィア・クラブでDJを務めていた頃に得たものであろう。
中盤でHugo「Love Tape」に、「Enjoy Your Life」のアカペラを重ねミックスしていく瞬間には、「母は私に"人生を楽しみなさい"という」というリリックが、リズムとともに体に染み渡っていく。『Mid Air』はコミュニティとしてのクラブへあらためて感謝を伝えるために生まれた作品だけに、これまでシングルとして聴いてきた「Lifetime」、「The Sea」、「Strong」も、あるべき場所で鳴っていることを実感する。深夜のRed Marqueeが醸し出す自由なムードのなかで彼女の音楽を聴くことのできる至福を味わう。中盤のディープハウス色強い場面でThe xx「Hold On」のジェイミーによるリミックスがプレイされたときには、2013年ホワイトや2017年のグリーンのステージを思い出す人は少なくなかったと思う。
90分に及ぶセットの最後に用意された、トランシーな高揚感に一旦ブレイクを置いて鳴らされた「Loveher」の切実さに胸が熱くなった。RomyのDJはその包容力あふれる音楽と同じく、ハッピーでロマンティックではあるのだけれど、孤独を感じながらダンスフロアで踊っている人たちへ差し伸べられた温かい手のようだった。
Text by 駒井憲嗣
Romy @ FUJI ROCK FESTIVAL '23 7/29 (SAT)
この夜RomyはDJブースのなかから何度も何度も胸の前にハートマークを作り、オーディエンスに手を振った。Jamie xx、Oliver Simに続いてソロキャリアの道を歩み始めた彼女の満を持してのファースト・アルバム『Mid Air』リリースを前にして、The xxとして何度もステージに立ったフジロックで、彼女が初めてのソロアクトでDJセットを選んだのは必然と言えるし、彼女が新作で伝えたかったメッセージにふさわしい。
フジロック2日目深夜を祝祭の場に変えたDJセットは、アルバム収録曲「Weightless」でスタート。Kings Of Tomorrow「Finally」といったハウス・クラシック、Binary Finary「1999」に代表されるトランス、そこに前日出演したOvermonoの「So U Kno」、Peggy Gou「(It Goes Like) Nanana」を挿し込んだり、ポップとアンダーグラウンドの間を行き来し進んでいく。その多幸感に満ちた流れには、The xxでのクールでスタイリッシュな佇まいとは趣を変え、カジュアルなTシャツ姿でブース内で踊りながらプレイする姿と同じく、穏やかなパーソナリティがにじみ出ている。決してマニアックになりすぎず、誰もが知っている定番の曲を新鮮に聴かせるスキルは、かつてロンドンのクィア・クラブでDJを務めていた頃に得たものであろう。
中盤でHugo「Love Tape」に、「Enjoy Your Life」のアカペラを重ねミックスしていく瞬間には、「母は私に"人生を楽しみなさい"という」というリリックが、リズムとともに体に染み渡っていく。『Mid Air』はコミュニティとしてのクラブへあらためて感謝を伝えるために生まれた作品だけに、これまでシングルとして聴いてきた「Lifetime」、「The Sea」、「Strong」も、あるべき場所で鳴っていることを実感する。深夜のRed Marqueeが醸し出す自由なムードのなかで彼女の音楽を聴くことのできる至福を味わう。中盤のディープハウス色強い場面でThe xx「Hold On」のジェイミーによるリミックスがプレイされたときには、2013年ホワイトや2017年のグリーンのステージを思い出す人は少なくなかったと思う。
90分に及ぶセットの最後に用意された、トランシーな高揚感に一旦ブレイクを置いて鳴らされた「Loveher」の切実さに胸が熱くなった。RomyのDJはその包容力あふれる音楽と同じく、ハッピーでロマンティックではあるのだけれど、孤独を感じながらダンスフロアで踊っている人たちへ差し伸べられた温かい手のようだった。
Text by 駒井憲嗣