Jockstrap @WWW X 3/8(WED
2022年ベストとして各メディアが絶賛した『I Love You Jennifer B』をひっさげ初来日となるジョックストラップの東京公演、ジョージア・エラリーとテイラー・スカイが織りなす美しいカオスにすっかり幻惑されてしまった。
WWW Xのステージに気さくに手を振りながら登場したふたりは、ホーンとストリングスを主体にしたエクスペリメンタルなトラックと複雑なメロディラインをミックスさせた「Jennifer B」でいきなりオーディエンスを奇妙なムードに放り込む。続く「Neon」では、ジョージアがアコースティック・ギターにエフェクトをかけ、テイラーの放つ太いビートの上でノイズを放出する。
『I Love You Jennifer B』ではポスト・ダブステップな音の太さを柱にヴィンテージなフォークのテイストを忍ばせるプロダクションが特徴だったが、ライブPAを通すと彼らの万華鏡のようなサウンドがさらにフリー・フォームに、アブストラクトに響いてくる。
昨年のブラック・カントリー・ニュー・ロードでの来日時とはうって変わり、妖艶さただようシックなドレス姿のジョージア、ニットキャップにシャツという出で立ちで、マッド・サイエンティストのように機材の前で自在にサウンドを変化させていくテイラー。緩急を心得たふたりが会場の空気をコントロールしていた。
オールド・タイムなハリウッド映画の薫り漂う「Acid」は、ジョージアがヴァイオリンを弾きながら歌うナンバー。赤と青のライティングのもと、テイラーがユーフォリックなトラックでフロアを包み込む。天使と悪魔、チャーミングさと妖艶さを行き来するヴォーカリストでありながら、マルチ・インストゥルメンタリストとしての存在感も見せつける彼女のステージ・プレゼンスは、近年のインディ・アクトのなかでも抜きん出ている。
「Robert」では、不穏さ漂うリリックと耳をつんざくようなラウドなシンセ・ベースを基調に、混沌としたビートとサンプリングの渦に、オーディエンスが熱狂する。一転して、アルバムのなかでもとりわけポップな「Greatest Hits」でのジョージアのソウル・ディーヴァへの変貌ぶりはどうだ。
テイラーの鳴らすストリングスの音色とともに優しく幻想的なファルセットが響く「What's It All About?」からは、再びジョージアがアコースティック・ギターを抱え、第二部とも言えるパートに。「Glasgow」はジョニ・ミッチェルを思わせるフォーキーなメロディとアコースティック・ギターのストロークがメインになっているものの、牧歌的な曲調に対して、ハモンド・オルガンからダブサイレンまで予測不可能な音の出し入れをぶつけてくる。「Debra」ではラー・バンドのようなエレクトロ・ポップとバングラ的ストリングスにのせ、ジョージアがボリウッドのダンサーさながらに首を振り踊る姿に、クラウドからため息が漏れる。
「Lancaster Court」では、カンタベリーあるいはアシッド・フォークなメロディにオペラのような不穏なコーラスが差し込まれ、時空が歪んでいく。テイラーの鳴らす優美なハープの音色が響き、そのまま「Angst」へ。ジョージアのシルキーな囁きと、恐怖や不安を刻みこんだリリックのバランスがシュールで、エンディングのファルセットに会場中が息を呑む。シンガロング必至の「Concrete Over Water」では、切なくロマンティックな前半からグリッチなブレイクを挟んで現れる破壊的な重低音にフロアが揺れ、ヴァイオリンを抱えたジョージアが、コンダクターのように弓を振りオーディエンスを煽る。
「The City」のピアノのイントロと〈The city I met was pink〉という歌い出しに、客席から悲鳴にも似た歓声が上げる。同じ街をテーマにした「Concrete Over Water」の前日譚とも言えるこの曲を続けて聴けるのもライブの醍醐味だろう。ジョージアのメランコリックな歌に胸を打たれていると、後半の破壊的なまでにカット・アンド・ペーストされたグリッチとシュールなモノローグのパートになだれ込む。テイラーがジョージアの手元のヴォーカルのエフェクターに手を伸ばし、彼女の声にリアルタイムでエフェクトをかける場面はたまらなくスリリングだった。
フレンチ・ポップとブレイクビーツが融合した「I Want Another Affair (Taylor Skye Remix)」では、ハウシーなピアノの連打が会場をさらに祝祭的なムードに変える。そして、ラストのバンガー「50/50」が〈Ah, eh, oo, ee, ah〉というコーラスとともに、場内のエネルギーが一気に沸点に達する。サビの〈I gotta go, gotta think about that (Fifty fifty)〉では、当然のごとくコール&レスポンスが起こり、この夜のクライマックスとなった。
終演後も、これは驚くべきものを観てしまった、という興奮が冷めやらない。静と動が絡み合うこの夜のセット自体が、『I Love You Jennifer B』と同じく、音楽的オープン・マインドがどこまでいけるかという挑戦のように感じられた。
Text by 駒井憲嗣
Photo by 古渓一道 / Kazumichi Kokei.
また今回の初来日公演を盛況のうちに終了させたメンバーのジョージア・エラリーは、自身が所属するブラック・カントリー・ニュー・ロードで4月に再び来日公演を行う。
ブラック・カントリー・ニュー・ロード待望の初単独ジャパンツアーはいよいよ来月!
東京公演完売警報発令!
名古屋・大阪公演も絶賛発売中!
Black Country, New Road Japan Tour 2023
2023.04.04 TUE : NAGOYA CLUB QUATTRO
2023.04.05 WED : UMEDA CLUB QUATTRO
2023.04.06 THU : SHIBUYA O-EAST
公演詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13168
2022年ベストとして各メディアが絶賛した『I Love You Jennifer B』をひっさげ初来日となるジョックストラップの東京公演、ジョージア・エラリーとテイラー・スカイが織りなす美しいカオスにすっかり幻惑されてしまった。
WWW Xのステージに気さくに手を振りながら登場したふたりは、ホーンとストリングスを主体にしたエクスペリメンタルなトラックと複雑なメロディラインをミックスさせた「Jennifer B」でいきなりオーディエンスを奇妙なムードに放り込む。続く「Neon」では、ジョージアがアコースティック・ギターにエフェクトをかけ、テイラーの放つ太いビートの上でノイズを放出する。
『I Love You Jennifer B』ではポスト・ダブステップな音の太さを柱にヴィンテージなフォークのテイストを忍ばせるプロダクションが特徴だったが、ライブPAを通すと彼らの万華鏡のようなサウンドがさらにフリー・フォームに、アブストラクトに響いてくる。
昨年のブラック・カントリー・ニュー・ロードでの来日時とはうって変わり、妖艶さただようシックなドレス姿のジョージア、ニットキャップにシャツという出で立ちで、マッド・サイエンティストのように機材の前で自在にサウンドを変化させていくテイラー。緩急を心得たふたりが会場の空気をコントロールしていた。
オールド・タイムなハリウッド映画の薫り漂う「Acid」は、ジョージアがヴァイオリンを弾きながら歌うナンバー。赤と青のライティングのもと、テイラーがユーフォリックなトラックでフロアを包み込む。天使と悪魔、チャーミングさと妖艶さを行き来するヴォーカリストでありながら、マルチ・インストゥルメンタリストとしての存在感も見せつける彼女のステージ・プレゼンスは、近年のインディ・アクトのなかでも抜きん出ている。
「Robert」では、不穏さ漂うリリックと耳をつんざくようなラウドなシンセ・ベースを基調に、混沌としたビートとサンプリングの渦に、オーディエンスが熱狂する。一転して、アルバムのなかでもとりわけポップな「Greatest Hits」でのジョージアのソウル・ディーヴァへの変貌ぶりはどうだ。
テイラーの鳴らすストリングスの音色とともに優しく幻想的なファルセットが響く「What's It All About?」からは、再びジョージアがアコースティック・ギターを抱え、第二部とも言えるパートに。「Glasgow」はジョニ・ミッチェルを思わせるフォーキーなメロディとアコースティック・ギターのストロークがメインになっているものの、牧歌的な曲調に対して、ハモンド・オルガンからダブサイレンまで予測不可能な音の出し入れをぶつけてくる。「Debra」ではラー・バンドのようなエレクトロ・ポップとバングラ的ストリングスにのせ、ジョージアがボリウッドのダンサーさながらに首を振り踊る姿に、クラウドからため息が漏れる。
「Lancaster Court」では、カンタベリーあるいはアシッド・フォークなメロディにオペラのような不穏なコーラスが差し込まれ、時空が歪んでいく。テイラーの鳴らす優美なハープの音色が響き、そのまま「Angst」へ。ジョージアのシルキーな囁きと、恐怖や不安を刻みこんだリリックのバランスがシュールで、エンディングのファルセットに会場中が息を呑む。シンガロング必至の「Concrete Over Water」では、切なくロマンティックな前半からグリッチなブレイクを挟んで現れる破壊的な重低音にフロアが揺れ、ヴァイオリンを抱えたジョージアが、コンダクターのように弓を振りオーディエンスを煽る。
「The City」のピアノのイントロと〈The city I met was pink〉という歌い出しに、客席から悲鳴にも似た歓声が上げる。同じ街をテーマにした「Concrete Over Water」の前日譚とも言えるこの曲を続けて聴けるのもライブの醍醐味だろう。ジョージアのメランコリックな歌に胸を打たれていると、後半の破壊的なまでにカット・アンド・ペーストされたグリッチとシュールなモノローグのパートになだれ込む。テイラーがジョージアの手元のヴォーカルのエフェクターに手を伸ばし、彼女の声にリアルタイムでエフェクトをかける場面はたまらなくスリリングだった。
フレンチ・ポップとブレイクビーツが融合した「I Want Another Affair (Taylor Skye Remix)」では、ハウシーなピアノの連打が会場をさらに祝祭的なムードに変える。そして、ラストのバンガー「50/50」が〈Ah, eh, oo, ee, ah〉というコーラスとともに、場内のエネルギーが一気に沸点に達する。サビの〈I gotta go, gotta think about that (Fifty fifty)〉では、当然のごとくコール&レスポンスが起こり、この夜のクライマックスとなった。
終演後も、これは驚くべきものを観てしまった、という興奮が冷めやらない。静と動が絡み合うこの夜のセット自体が、『I Love You Jennifer B』と同じく、音楽的オープン・マインドがどこまでいけるかという挑戦のように感じられた。
Text by 駒井憲嗣
Photo by 古渓一道 / Kazumichi Kokei.
また今回の初来日公演を盛況のうちに終了させたメンバーのジョージア・エラリーは、自身が所属するブラック・カントリー・ニュー・ロードで4月に再び来日公演を行う。
ブラック・カントリー・ニュー・ロード待望の初単独ジャパンツアーはいよいよ来月!
東京公演完売警報発令!
名古屋・大阪公演も絶賛発売中!
Black Country, New Road Japan Tour 2023
2023.04.04 TUE : NAGOYA CLUB QUATTRO
2023.04.05 WED : UMEDA CLUB QUATTRO
2023.04.06 THU : SHIBUYA O-EAST
公演詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13168