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FKJ / 多彩なスキルと音楽性をエレガントに、そして没入感たっぷりに味あわせた一夜

2024.06.06

FKJ / 多彩なスキルと音楽性をエレガントに、そして没入感たっぷりに味あわせた一夜

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FKJ / 多彩なスキルと音楽性をエレガントに、そして没入感たっぷりに味あわせた一夜

Photo by SHUN ITABA

FKJ 2024/6/5 @Toyosu PIT

昨年のFUJI ROCK FESTIVALではRED MARQUEEに入場規制がかかり涙を呑んだオーディエンスも少なくないだろう。それ以来となる来日公演だけに、前日の大阪に続きソールドアウトとなった豊洲PITの熱気と待望感は尋常ではなった。

開演時間を迎えステージに現れたFKJはまずピアノの前に座り、おもむろにメロディを弾き始める。そのピアノをループさせ、音色を重ねながらアンサンブルをふくよかに膨らませていくイントロダクションのあと、「Us」が奏でられ、トリッピーな映像がステージ後方のスクリーンに映し出されると、場内から歓喜の声が巻き起こる。ソウルフルなサックスとピアノの掛け合いで魅了し、来場のオーディエンスに挨拶すると、ヴォイス・サンプルが印象的でフレンチ・ハウス的な「Go Back Home」は、FKJが誘う音楽の旅への導入としてぴったりだ。トム・ミッシュとのコラボ曲で彼の名を知らしめた「Losing My Way」では、マルチ・インストルゥメンタリストとしてピアノ、ギター、ベース、キーボード、サックスそしてヴォーカルとレイヤーを次々に重ねていくライブのスタイルのなかでも、とりわけファンキーなベースが繰り出される。

イントロが鳴った途端悲鳴にも似た声援が上がる「Risk」のメランコリーと、初期のハウシーな4つ打ちナンバー「Open The Door」を繋ぎ、トロピカルで官能的な「So Much to Me」へとエレクトロニックな展開が続く。ここではスクリーンにステージの彼の演奏する姿がリアルタイムで映され、どのような手さばきでこのサウンドが生まれているのかが示される。静謐なピアノからクライマックスへとなだれ込む「Tui」から、ライブではおなじみとなったウィリアム・ディボーン「Be Thankful For What You Got」のリミックス、そして音源では未発表の、ファンキーなベースをメインにした「Rare Flowers」ではステージ上の彼の姿が万華鏡のように投影される。そしてマセーゴとのコラボ曲「Tadow」へ。「Yeeah, ooh, yeh」と歌われるパートではシンガロングが起こり、彼の実験的精神とジャズのスピリットにほれぼれする。かつてコーチェラのステージで自宅のリビングを再現したセットを構築したように、FKJのパフォーマンスは彼の家に招かれたような、ゆったりとリラックスした心持ちになれるムードに定評が高いけれど、現在のモードはファンクにあるのではないかと思わせるほど、ダンサブルな流れも特筆すべきものだ。

一転して映画のサウンドトラックを思わせるスケールの大きなドラマティックなストリングスが響く「Different Masks for Different Days」では、会場全体が息を呑む。本編の最後を飾ったのは、ノスタルジックな旋律の「Ylang Ylang」。緩急に富んだセットリストの最後をこんな穏やかな楽曲で締めくくることができるのもFKJならでは。割れんばかりの拍手に手を合わせていちどステージを後にしたものの、鳴り止まぬアンコールの声に応えて登場した彼は、この東京公演が1年半に及ぶワールドツアーの最終日であることを明かす。アジアの各公演ではアンコールで会場ごとに何が聴きたいかリクエストを聞いていたようで、「何が聴きたい?」という呼びかけに、会場からは一斉に様々な曲名が飛び出す。オーディエンスのリクエストにじっくり耳を傾けたあと、クラシックの風格漂うネオソウル「Skyline」のイントロが鳴り響くと大きな歓声がわき、たちまちシンガロングがはじまった。

その後に続くダンサブルなジャムでは、オーディエンスにコール・アンド・レスポンスを呼びかけその声をサンプリングしコーラスにしてミックス。こうしたインプロ的演奏を決して冗長にならず随所に挟んでいくその構成力に唸らされる。
オーディエンスとの絆を再確認したように感慨深げな彼は、澄み切った朝を思わせる「Sundays」を奏で、『V I N C E N T』のオープニングナンバーでいつ聴いてもイノセントな感情が呼び起こされる「Way Out」でアンコールは締めくくられた。ラストのサックスが次第に消え入ると、FKJはあらためてオーディエンスに感謝を伝え、ステージを去った。

終演後、フロアからは「ヤバかった!」という声が至るところから聞こえ、満足度の高さが感じられた。とかくロウと形容されがちだけれど、チルアウトだけではなく、踊れる要素もふんだんに盛り込まれ、演奏と完璧にシンクロするビジュアルそして照明も相まって、多彩なスキルと音楽性をエレガントに、そして没入感たっぷりに味わわせるエンターテイナーとしての姿に酔いしれた。

Text by 駒井憲嗣

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