Autechre 2023/8/18 @Sonic Mania
開演前、ステージ横のスクリーンには「演奏中は真っ暗な空間で行いますので、1箇所に留まってください」というアナウンスが表示されている。ここ数年は『AE_LIVE』と題し過去のライブ音源を発表、つい先日も2022年のライブ音源をコンパイルした『AE_LIVE 2022-』を発表したばかり。膨大な数のアーカイブを放ち続け、その動向が注目されているオウテカによる久方ぶりの日本でのパフォーマンスということで、ソニックステージは異様な緊張感そして期待感に包まれていた。
午前2時40分、場内が暗くなり、音の波が次第に空間を満たしていく。ソニックステージの設計上のためか、周囲のオーディエンスの姿がうっすらと分かる程度の視界は確保できるのだけれど、それでも、私たちがまぶたを閉じたときの感覚に近い状態に放り込まれる。ステージのほうを見上げてみても、ショーン・ブースとロブ・ブラウンがいる気配は感じるのだが、姿を確認することはできない。
オウテカのライブ・パフォーマンスの特徴のひとつとして、各公演ごとだけでなく、セット中もひとつとして同じテンポや音質の場面がなく、流動的であることが挙げられる。ベースラインは増幅を繰り返し、ビートは切り刻まれ、そのダイナミクスのコントラストを体全体で浴びていると、彼らのサウンドを形容する際にしばしば使われる「カオス」という言葉さえ、ふさわしくないのではないかと感じてきてしまう。予測できないサウンドスケープと不協和音ではあるのだが、全編を通してそれを自在にコントロールするふたりの手さばき、オーディエンスを熱狂の状態に導く過程には、ジャズのインプロビゼーションやクラシックのオーケストレーションと並べてしまいたくなるような瞬間さえある(もちろんそのどれとも異なるのだが)。
暗闇を注意して見渡してみると、直立不動の人、体を小刻みに揺らしている人、手をブラブラさせビートに反応している人、腕を組んで下を向きじっとしている人など、様々な反応をしてるオーディエンスのシルエットがかろうじて確認できる。誰もが、暗闇に取り残されることの不安を経て、視界を奪われることで研ぎ澄まされた身体感覚をフルに活用できることの快楽を、思い思いに楽しんでいるように見受けられた。
この夜のセットは、これまで聴いてきオウテカのライブ音源にあるような、時間をかけてなだらかに変化を続けていくグルーヴというよりも、序盤からフルスロットで「トバして」いるような印象があった。とはいえ、暴力的なまでのノイズやカットアップは無軌道で放たれているわけではなく、精緻に組み立てられたものであることは言うまでもない。例えば中盤、アナログのようなノイズとともに自然の音とインダストリアルな音をミックスさせたような響きの隙間に、わずかな静寂が生まれたときのサウンドスケープの美しさは、いつまでも脳裏から離れない。
10,000人規模のソニックステージ全体がスピーカーのウーファーになってしまったような、すさまじい脈動がそこにはあった。漆黒の闇のなかの愉悦を味わう1時間はあっという間に過ぎ、始まったときと同じように、いつのまにか音は終了し、いつまでも喝采は鳴り止むことはなかった。エクスペリメンタルなエレクトロニック・デュオはまたしても、その先進性を更新した。
Text by 駒井憲嗣
開演前、ステージ横のスクリーンには「演奏中は真っ暗な空間で行いますので、1箇所に留まってください」というアナウンスが表示されている。ここ数年は『AE_LIVE』と題し過去のライブ音源を発表、つい先日も2022年のライブ音源をコンパイルした『AE_LIVE 2022-』を発表したばかり。膨大な数のアーカイブを放ち続け、その動向が注目されているオウテカによる久方ぶりの日本でのパフォーマンスということで、ソニックステージは異様な緊張感そして期待感に包まれていた。
午前2時40分、場内が暗くなり、音の波が次第に空間を満たしていく。ソニックステージの設計上のためか、周囲のオーディエンスの姿がうっすらと分かる程度の視界は確保できるのだけれど、それでも、私たちがまぶたを閉じたときの感覚に近い状態に放り込まれる。ステージのほうを見上げてみても、ショーン・ブースとロブ・ブラウンがいる気配は感じるのだが、姿を確認することはできない。
オウテカのライブ・パフォーマンスの特徴のひとつとして、各公演ごとだけでなく、セット中もひとつとして同じテンポや音質の場面がなく、流動的であることが挙げられる。ベースラインは増幅を繰り返し、ビートは切り刻まれ、そのダイナミクスのコントラストを体全体で浴びていると、彼らのサウンドを形容する際にしばしば使われる「カオス」という言葉さえ、ふさわしくないのではないかと感じてきてしまう。予測できないサウンドスケープと不協和音ではあるのだが、全編を通してそれを自在にコントロールするふたりの手さばき、オーディエンスを熱狂の状態に導く過程には、ジャズのインプロビゼーションやクラシックのオーケストレーションと並べてしまいたくなるような瞬間さえある(もちろんそのどれとも異なるのだが)。
暗闇を注意して見渡してみると、直立不動の人、体を小刻みに揺らしている人、手をブラブラさせビートに反応している人、腕を組んで下を向きじっとしている人など、様々な反応をしてるオーディエンスのシルエットがかろうじて確認できる。誰もが、暗闇に取り残されることの不安を経て、視界を奪われることで研ぎ澄まされた身体感覚をフルに活用できることの快楽を、思い思いに楽しんでいるように見受けられた。
この夜のセットは、これまで聴いてきオウテカのライブ音源にあるような、時間をかけてなだらかに変化を続けていくグルーヴというよりも、序盤からフルスロットで「トバして」いるような印象があった。とはいえ、暴力的なまでのノイズやカットアップは無軌道で放たれているわけではなく、精緻に組み立てられたものであることは言うまでもない。例えば中盤、アナログのようなノイズとともに自然の音とインダストリアルな音をミックスさせたような響きの隙間に、わずかな静寂が生まれたときのサウンドスケープの美しさは、いつまでも脳裏から離れない。
10,000人規模のソニックステージ全体がスピーカーのウーファーになってしまったような、すさまじい脈動がそこにはあった。漆黒の闇のなかの愉悦を味わう1時間はあっという間に過ぎ、始まったときと同じように、いつのまにか音は終了し、いつまでも喝采は鳴り止むことはなかった。エクスペリメンタルなエレクトロニック・デュオはまたしても、その先進性を更新した。
Text by 駒井憲嗣