Black Country, New Road @O-EAST 4/6(THU)
ソールドアウトとなりぎっしりと埋まったO-EASTの客電が落ち、ジャパンツアーのポスターで用いられた桜や富士山がモチーフのビジュアルが映され、ボン・ジョヴィ「You Give Love a Bad Name」をSEにメンバーがステージに現れる。新作『Live at Bush Hall』に合わせて公開されたSpotifyのプレイリストでもアーサー・ラッセルやロウ、青葉市子等と一緒にジャーニーの「Don't Stop Believin'」が入っていたし、アート・ロック的イメージの強い彼らのルーツやインスピレーションに80'sスタジアム・ロックが少なからずあることがわかる痛快な選曲だ。
オープナーは2022年のフジロックやニューアルバムと同じく「Up Song」。バンドが育むコミュニティを題材に、6人で再始動したバンドの決意表明と受け取れるこの曲をあらためて生で聴けることを待ちわびていたオーディエンスのボルテージがいきなり上がり、〈ねえ見て、私達が一緒にしたことを/BC,NRは永遠の友達同士〉というリフレインのシンガロングと歓声で応える。
メイがアコーディオンとキーボードをプレイしながら歌う「The Boy」は、バロックポップ的なムードから霧が晴れていくような展開がより胸に迫る。そしてサックスのルイスの「新曲の時間だ」というMCのあと、日本公演で初披露となる「24/7 365 British Summer Time」。6人が平等に制作に関わる新体制のなかで、センターに立たざるをえなかった彼のプレッシャーが開放されていく過程が手に取るように伝わってきただけに、彼のロマンティックな歌声とソングライティングが発揮されたこの曲に、なんとも頼もしさを感じてしまう。アウトロでの「僕の親友を紹介します」とメンバー紹介を行う場面も微笑ましい。
続く「I Won't Always Love You」は、ボーカルをとるベースのタイラーが「とても悲しい曲」と説明したように、失恋をテーマに緊張感溢れる室内楽的アンサンブルと後半のラウドなうねりの対比に震えが止まらない。ルイスが「はるばる来られて嬉しい」と客席に語りかけた後の、遠くに離れた友を回想する「Across the Pond Friend」のストレートな高揚もビシッと決まっていて、歌い終えたルイスも満足げだ。タイラーの豊かな表現力はとりわけ「Laughing Song」の儚くも芯の強さが浮かび上がるビブラートに顕著だった。
ここでジョージアが「私のための新曲」と前置きし、ヴァイオリンからマンドリンに持ち替えリードボーカルをとる「Horses」。アメリカーナなムードをまといながら、ダンス・ミュージックやクレズマーの要素も窺える多層的なナンバーだ。ハイトーンの歌声は先日来日公演を行ったジョックストラップの楽曲を彷彿とさせながら、目まぐるしく変化していく展開は、一本の映画を観ているようで、まさにBC,NRの新境地と言える仕上がりだった。
さらにタイラーが「初めて新曲を演奏できることが嬉しい」と話し、なんとこの夜3曲目の新曲「Nancy Tries to Take the Night」へ。ルークがアコースティック・ギター、ドラムのチャーリーがバンジョーを抱え、フリーフォーク的な質感の序盤から一気にマスロック的ダイナミズムへと変貌を遂げる。そこに乗るタイラーのボーカルもネクストレベルに達していた。
予期せぬ新曲群に興奮しているまもなく、『Live At Bush Hall』収録のなかでも屈指の名曲「Turbines/Pigs」。タイラー、ルイス、チャーリー、ルークがステージの床に座りこみメイとジョージアの演奏をオーディエンスと一緒に聴き入る序盤から、鋭利かつ包容力を持つアンサンブルを構築していく。ルークがノイジーなギターを撒き散らし、圧倒的な迫力を持つアウトロのインストゥルメンタルの繰り返しにフロアから悲鳴にも似た歓声が起こる。
圧倒的なプレイを終え、メイが日本語でスタッフやサポート・アクトのジュリア・ショートリードに感謝を伝え、最後の曲「Dancers」をプレイする。この日はとりわけ、中盤のルークの鬼気迫るプレイ、そしてチャーリーのテクニカルなドラミングが、この曲のエモーションをさらに増幅させていた。〈舞台の上のダンサー達は微動だにせず立っている〉というリフレインが6人全員によるコーラスへと展開していくさまは、個の痛みをバンドのアウトプットへと昇華させる、BC,NRという存在自体を投影しているようにも感じられてしょうがなかった。そのままオープニングの「Up Song」の原型とも言える「Up Song (Reprise)」でのタイラーの切々とした歌が、エンディングを美しく彩った。
爆発的なエモーションと、それを精緻な演奏力で構築していくメンバー個々の才能と個性に感嘆の連続だった。客電がついても満員のオーディエンスはその場を離れようとせず、拍手喝采が鳴り止まないことも、この夜が完璧であったことを証明していた。楽曲の完成度、演奏の成熟度はもちろんなのだが、新作をリリースしたばかりなのに、さらにそこからもセットリストを変えてくる、とどまることがないクリエイティビティ。挑戦と変化を繰り返していく方法論をもとに、今後の進化への期待が余韻となって押し寄せてくる夜だった。
text by 駒井憲嗣
ソールドアウトとなりぎっしりと埋まったO-EASTの客電が落ち、ジャパンツアーのポスターで用いられた桜や富士山がモチーフのビジュアルが映され、ボン・ジョヴィ「You Give Love a Bad Name」をSEにメンバーがステージに現れる。新作『Live at Bush Hall』に合わせて公開されたSpotifyのプレイリストでもアーサー・ラッセルやロウ、青葉市子等と一緒にジャーニーの「Don't Stop Believin'」が入っていたし、アート・ロック的イメージの強い彼らのルーツやインスピレーションに80'sスタジアム・ロックが少なからずあることがわかる痛快な選曲だ。
オープナーは2022年のフジロックやニューアルバムと同じく「Up Song」。バンドが育むコミュニティを題材に、6人で再始動したバンドの決意表明と受け取れるこの曲をあらためて生で聴けることを待ちわびていたオーディエンスのボルテージがいきなり上がり、〈ねえ見て、私達が一緒にしたことを/BC,NRは永遠の友達同士〉というリフレインのシンガロングと歓声で応える。
メイがアコーディオンとキーボードをプレイしながら歌う「The Boy」は、バロックポップ的なムードから霧が晴れていくような展開がより胸に迫る。そしてサックスのルイスの「新曲の時間だ」というMCのあと、日本公演で初披露となる「24/7 365 British Summer Time」。6人が平等に制作に関わる新体制のなかで、センターに立たざるをえなかった彼のプレッシャーが開放されていく過程が手に取るように伝わってきただけに、彼のロマンティックな歌声とソングライティングが発揮されたこの曲に、なんとも頼もしさを感じてしまう。アウトロでの「僕の親友を紹介します」とメンバー紹介を行う場面も微笑ましい。
続く「I Won't Always Love You」は、ボーカルをとるベースのタイラーが「とても悲しい曲」と説明したように、失恋をテーマに緊張感溢れる室内楽的アンサンブルと後半のラウドなうねりの対比に震えが止まらない。ルイスが「はるばる来られて嬉しい」と客席に語りかけた後の、遠くに離れた友を回想する「Across the Pond Friend」のストレートな高揚もビシッと決まっていて、歌い終えたルイスも満足げだ。タイラーの豊かな表現力はとりわけ「Laughing Song」の儚くも芯の強さが浮かび上がるビブラートに顕著だった。
ここでジョージアが「私のための新曲」と前置きし、ヴァイオリンからマンドリンに持ち替えリードボーカルをとる「Horses」。アメリカーナなムードをまといながら、ダンス・ミュージックやクレズマーの要素も窺える多層的なナンバーだ。ハイトーンの歌声は先日来日公演を行ったジョックストラップの楽曲を彷彿とさせながら、目まぐるしく変化していく展開は、一本の映画を観ているようで、まさにBC,NRの新境地と言える仕上がりだった。
さらにタイラーが「初めて新曲を演奏できることが嬉しい」と話し、なんとこの夜3曲目の新曲「Nancy Tries to Take the Night」へ。ルークがアコースティック・ギター、ドラムのチャーリーがバンジョーを抱え、フリーフォーク的な質感の序盤から一気にマスロック的ダイナミズムへと変貌を遂げる。そこに乗るタイラーのボーカルもネクストレベルに達していた。
予期せぬ新曲群に興奮しているまもなく、『Live At Bush Hall』収録のなかでも屈指の名曲「Turbines/Pigs」。タイラー、ルイス、チャーリー、ルークがステージの床に座りこみメイとジョージアの演奏をオーディエンスと一緒に聴き入る序盤から、鋭利かつ包容力を持つアンサンブルを構築していく。ルークがノイジーなギターを撒き散らし、圧倒的な迫力を持つアウトロのインストゥルメンタルの繰り返しにフロアから悲鳴にも似た歓声が起こる。
圧倒的なプレイを終え、メイが日本語でスタッフやサポート・アクトのジュリア・ショートリードに感謝を伝え、最後の曲「Dancers」をプレイする。この日はとりわけ、中盤のルークの鬼気迫るプレイ、そしてチャーリーのテクニカルなドラミングが、この曲のエモーションをさらに増幅させていた。〈舞台の上のダンサー達は微動だにせず立っている〉というリフレインが6人全員によるコーラスへと展開していくさまは、個の痛みをバンドのアウトプットへと昇華させる、BC,NRという存在自体を投影しているようにも感じられてしょうがなかった。そのままオープニングの「Up Song」の原型とも言える「Up Song (Reprise)」でのタイラーの切々とした歌が、エンディングを美しく彩った。
爆発的なエモーションと、それを精緻な演奏力で構築していくメンバー個々の才能と個性に感嘆の連続だった。客電がついても満員のオーディエンスはその場を離れようとせず、拍手喝采が鳴り止まないことも、この夜が完璧であったことを証明していた。楽曲の完成度、演奏の成熟度はもちろんなのだが、新作をリリースしたばかりなのに、さらにそこからもセットリストを変えてくる、とどまることがないクリエイティビティ。挑戦と変化を繰り返していく方法論をもとに、今後の進化への期待が余韻となって押し寄せてくる夜だった。
text by 駒井憲嗣