Photo by Tadamasa Iguchi
LOUIS COLE BIG BAND
JAPAN TOUR 2022
SUPPORT ACT: GENEVIEVE ARTADI
2022.12.07 Wed @ O-East
2018年に続き全公演ソールドアウトとなった今回の来日公演。すし詰めとなったO-EASTのフロアには、白馬に乗った勇姿がデザインされた日本公演限定ポスターを手にする人も多くみかけられて、期待値が半端ではない。
ルイス・コールとのユニット、ノウワーとしての活動でも知られるジェネヴィーヴ・アルターディがオープニング・アクトとして登場。同じくビッグバンドの一員であるチキータ・マジックことイシス・ヒラルド、フエンサンタ・メンデスと3人でのパフォーマンスだったのだが、これがいきなり素晴らしかった。インディーR&B、シンセ・ポップ、チープなカラオケ・ミュージックを織り合わせた、いずれもソロとして活躍する彼女たちの才気が柔らかく融合する、ストレンジかつチャーミングなパフォーマンスに魅了された。
続いて荘厳なイントロがステージ上に流れ、ルイス・コールがひとりで現れる。胸の部分でカットオフした赤いスウェットパーカーという、思わずルームウェア!?と突っ込みたくなるアウトフィット、あの筋肉スーツと別の意味で衝撃の、ツアーポスターの“貴公子”ぶりとのあまりのギャップに笑いが漏れる。「用意はいい?」とオーディエンスを煽るも、手にした白いポラロイドカメラで客席を撮ったり、まるで彼の部屋に招かれたようなくつろいだ空気にほっこりする。「ニューアルバムをリリースばかりなんだけれど……これからやる曲はそれとは関係ない」場内が脱力した笑いに包まれるも、「F It Up」のリズムボックスとキーボードの音色が始まると、一気にフロアのボルテージが上がる。骸骨スーツのメンバーを招き入れ、「1、2、3、4」の掛け声とともにビッグバンドが演奏を開始すると思いきや、キーボードのトラブルで演奏が止まるハプニングが。しかし「1、2、3、4のパートからやり直すよ。このパートが好きなんだよね、みんなも好きだろ?」とすかさず切り返し再開。オーディエンスとの一体感が強まり、フロアは一気にダンスフロアに変貌する。
どうやって出しているの!と驚嘆するルイスのドラム(そこにはシンバル一音で情感を表現してしまうような繊細さもある)、絡みつくようなベース、優美なキーボードをベースにしたバンドの圧倒的なアンサンブルは、おそらく彼により理知的にコントロールされているのだろうけれど、それを感じさせないリラックスしたムードがある。3名のコーラスは他のプレーヤーのソロ中に寝転んだり、ステージを所狭しと駆け回ったり、とにかく自由だ。今回の日本公演のために結成されたホーンセクションには、現在の日本の音楽シーンを支えるプレーヤーが集結。「Sick!(最高!)」と絶賛していたように、ルイスが全幅の信頼を寄せていたことが伺える。なお、オープニングで彼がキーボードでチャルメラのメロディを弾いたのを引き継ぎ、幾つかのソロパートの場面でチャルメラのメロディを挿入するという細かい趣向も面白かった。
ファンキーな「Thinking」ではテナー・サックスの馬場智章をフィーチャー。ニューアルバムのタイトルトラック「Quality Over Opinion」ではおもむろにカンペを掲げ、重厚なストリングスのサウンドをバックにあの膨大なリリックをひたすらまくしたて、そのままアルト・サックスのMELRAWのソロが荒々しい「Bitches」へ。「次はソフトな曲を」という言葉の後、プリンスを思わせるスローファンク「After the Load Is Blown」ではトランペットの佐瀬悠輔のソロをフィーチャーし、オーディエンスも手を挙げ揺らす。
華やかなホーン・ブレイクを加えることでノベルティ・ソング的ユーモラスな印象を一変させた「Bank Account / Doing the Things」。コーラス隊がボトルをパーカッション替わりに叩き、トロンボーンの大田垣正信の勇壮なソロが光る。クラシカルな「Last Time You Went Away」に続き、タイトなビートを持つバンガー「Failing in a Cool Way」のイントロが鳴るとフロアから手拍子が巻き起こる。陸悠のバリトン・サックスのソロ、オロフソンのベースソロが絡み合う展開がスリリングだ。
個人的にもっともグッときたのは「Night」だ。人生の終わりに君とドライブできたら—この上なく美しいメロディとシンプルな言葉で深い感情を歌うこの曲は、聖なる12月の夜にふさわしい。「My Buick」では、武嶋聡のピッコロとマーチング・バンド的アンサンブルが高揚感たっぷりで、あっという間に時間が過ぎていく。
「これが最後の曲だ……実際は2曲あるけど……アンコールは3曲用意してある」とぶっちゃけ観客を笑わせたあと、自分が日本と東京を愛し、今夜のショーが自分に特別なものだと強調する。「Let It Happen」もまた「Night」と繋がる、孤独と実存的な問いかけを歌うメランコリックなナンバーだ。エキセントリックなキャラクターに隠れがちだけれど、こうした表現があるからこそ信頼できる。この曲のエンディングからリズムボックスでそのまま繋がれ、本編ラストの「Park Your Car On My Face」へ。“Gurl I love you so”のリフレインを“I Love Tokyo”に替えるルイスに、フロアからさらなる歓声が起こる。
約束通りアンコールに登場した彼らは、新作からスムースなR&Bのなかに失った愛を告白する「Message」を演奏し、会場が得も言われぬ穏やかさに包まれる。そして「Freaky Times」「When You're Ugly」で華やかにアンコールを締めくくるも、鳴り止まぬオーディエンスの拍手と歓声に応え、「もう演奏する曲がないんだけど」と謝りながら「Thinking」をテンポアップしダブル・アンコールとしてプレイ。
超人、バカテクと形容されがちではあるが、流麗なコード進行とハーモニーに彼の真価をみた『Quality Over Opinion』のスピリットが受け継がれたパフォーマンスだった。これだけ技巧派のメンバーを集めながらも、テクニックのひけらかしではなく、明快で踊れるポップさをもってプレゼンテーションしていくこと。つまり、楽しさを提供するためにはどうするか、極めて冷静に考えられているということなのだろう。飄々とした佇まいに、笑いも含めたグルーヴの的確さを心得ている。公演中も笑い声が耐えなかったし、終演後も会場を後にする人々が口々に「楽しかった!」と笑顔を浮かべている。歓喜と快楽に満ちたステージだった。
Text by駒井憲嗣
ライブ・セットリストのプレイリスト公開中!
https://fanlink.to/iitD
Louis Cole来日公演の各会場で即完となった帽子が本日よりオンライン受注スタート!
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13181
Photo by Tadamasa Iguchi
LOUIS COLE BIG BANDJAPAN TOUR 2022
SUPPORT ACT: GENEVIEVE ARTADI
2022.12.07 Wed @ O-East
2018年に続き全公演ソールドアウトとなった今回の来日公演。すし詰めとなったO-EASTのフロアには、白馬に乗った勇姿がデザインされた日本公演限定ポスターを手にする人も多くみかけられて、期待値が半端ではない。
ルイス・コールとのユニット、ノウワーとしての活動でも知られるジェネヴィーヴ・アルターディがオープニング・アクトとして登場。同じくビッグバンドの一員であるチキータ・マジックことイシス・ヒラルド、フエンサンタ・メンデスと3人でのパフォーマンスだったのだが、これがいきなり素晴らしかった。インディーR&B、シンセ・ポップ、チープなカラオケ・ミュージックを織り合わせた、いずれもソロとして活躍する彼女たちの才気が柔らかく融合する、ストレンジかつチャーミングなパフォーマンスに魅了された。
続いて荘厳なイントロがステージ上に流れ、ルイス・コールがひとりで現れる。胸の部分でカットオフした赤いスウェットパーカーという、思わずルームウェア!?と突っ込みたくなるアウトフィット、あの筋肉スーツと別の意味で衝撃の、ツアーポスターの“貴公子”ぶりとのあまりのギャップに笑いが漏れる。「用意はいい?」とオーディエンスを煽るも、手にした白いポラロイドカメラで客席を撮ったり、まるで彼の部屋に招かれたようなくつろいだ空気にほっこりする。「ニューアルバムをリリースばかりなんだけれど……これからやる曲はそれとは関係ない」場内が脱力した笑いに包まれるも、「F It Up」のリズムボックスとキーボードの音色が始まると、一気にフロアのボルテージが上がる。骸骨スーツのメンバーを招き入れ、「1、2、3、4」の掛け声とともにビッグバンドが演奏を開始すると思いきや、キーボードのトラブルで演奏が止まるハプニングが。しかし「1、2、3、4のパートからやり直すよ。このパートが好きなんだよね、みんなも好きだろ?」とすかさず切り返し再開。オーディエンスとの一体感が強まり、フロアは一気にダンスフロアに変貌する。
どうやって出しているの!と驚嘆するルイスのドラム(そこにはシンバル一音で情感を表現してしまうような繊細さもある)、絡みつくようなベース、優美なキーボードをベースにしたバンドの圧倒的なアンサンブルは、おそらく彼により理知的にコントロールされているのだろうけれど、それを感じさせないリラックスしたムードがある。3名のコーラスは他のプレーヤーのソロ中に寝転んだり、ステージを所狭しと駆け回ったり、とにかく自由だ。今回の日本公演のために結成されたホーンセクションには、現在の日本の音楽シーンを支えるプレーヤーが集結。「Sick!(最高!)」と絶賛していたように、ルイスが全幅の信頼を寄せていたことが伺える。なお、オープニングで彼がキーボードでチャルメラのメロディを弾いたのを引き継ぎ、幾つかのソロパートの場面でチャルメラのメロディを挿入するという細かい趣向も面白かった。
ファンキーな「Thinking」ではテナー・サックスの馬場智章をフィーチャー。ニューアルバムのタイトルトラック「Quality Over Opinion」ではおもむろにカンペを掲げ、重厚なストリングスのサウンドをバックにあの膨大なリリックをひたすらまくしたて、そのままアルト・サックスのMELRAWのソロが荒々しい「Bitches」へ。「次はソフトな曲を」という言葉の後、プリンスを思わせるスローファンク「After the Load Is Blown」ではトランペットの佐瀬悠輔のソロをフィーチャーし、オーディエンスも手を挙げ揺らす。
華やかなホーン・ブレイクを加えることでノベルティ・ソング的ユーモラスな印象を一変させた「Bank Account / Doing the Things」。コーラス隊がボトルをパーカッション替わりに叩き、トロンボーンの大田垣正信の勇壮なソロが光る。クラシカルな「Last Time You Went Away」に続き、タイトなビートを持つバンガー「Failing in a Cool Way」のイントロが鳴るとフロアから手拍子が巻き起こる。陸悠のバリトン・サックスのソロ、オロフソンのベースソロが絡み合う展開がスリリングだ。
個人的にもっともグッときたのは「Night」だ。人生の終わりに君とドライブできたら—この上なく美しいメロディとシンプルな言葉で深い感情を歌うこの曲は、聖なる12月の夜にふさわしい。「My Buick」では、武嶋聡のピッコロとマーチング・バンド的アンサンブルが高揚感たっぷりで、あっという間に時間が過ぎていく。
「これが最後の曲だ……実際は2曲あるけど……アンコールは3曲用意してある」とぶっちゃけ観客を笑わせたあと、自分が日本と東京を愛し、今夜のショーが自分に特別なものだと強調する。「Let It Happen」もまた「Night」と繋がる、孤独と実存的な問いかけを歌うメランコリックなナンバーだ。エキセントリックなキャラクターに隠れがちだけれど、こうした表現があるからこそ信頼できる。この曲のエンディングからリズムボックスでそのまま繋がれ、本編ラストの「Park Your Car On My Face」へ。“Gurl I love you so”のリフレインを“I Love Tokyo”に替えるルイスに、フロアからさらなる歓声が起こる。
約束通りアンコールに登場した彼らは、新作からスムースなR&Bのなかに失った愛を告白する「Message」を演奏し、会場が得も言われぬ穏やかさに包まれる。そして「Freaky Times」「When You're Ugly」で華やかにアンコールを締めくくるも、鳴り止まぬオーディエンスの拍手と歓声に応え、「もう演奏する曲がないんだけど」と謝りながら「Thinking」をテンポアップしダブル・アンコールとしてプレイ。
超人、バカテクと形容されがちではあるが、流麗なコード進行とハーモニーに彼の真価をみた『Quality Over Opinion』のスピリットが受け継がれたパフォーマンスだった。これだけ技巧派のメンバーを集めながらも、テクニックのひけらかしではなく、明快で踊れるポップさをもってプレゼンテーションしていくこと。つまり、楽しさを提供するためにはどうするか、極めて冷静に考えられているということなのだろう。飄々とした佇まいに、笑いも含めたグルーヴの的確さを心得ている。公演中も笑い声が耐えなかったし、終演後も会場を後にする人々が口々に「楽しかった!」と笑顔を浮かべている。歓喜と快楽に満ちたステージだった。
Text by駒井憲嗣
ライブ・セットリストのプレイリスト公開中!
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Louis Cole来日公演の各会場で即完となった帽子が本日よりオンライン受注スタート!
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