Underworld @ Tokyo Garden Theater 10/4 (TUE)
「日本は私たちにとって第2のホーム」キャリアを網羅する圧巻の一夜
「前回の日本での演奏から1838日……ついに帰ってきた!」2017年9月の「ULTRA JAPAN 2017」以来となる来日を果たしたカール・ハイドとリック・スミス。SNSで“帰還”を報告した彼らが大阪公演に続き登場した東京ガーデンシアターは、横長にとられたアリーナと4層のバルコニーを持ち、ステージとの一体感と劇場の荘厳さの双方を体験できる、5年ぶりとなるアンダーワールドの東京公演にふさわしいヴェニューと言えよう。
BGMとして流れていた、彼らが音楽監督を務めた2012年のロンドンオリンピック提供曲「Caliban’s Dream」が終わり場内が暗くなると、コックピットのように中央に機材をセッティングしたステージにふたりが現れ、今年新たなバージョンがリリースされた「Juanita 2022」のイントロが鳴り響く。「there is a sound on the other side on this wall」というカールの歌い出しでフロアがどよめく。2000年のライヴ盤『Everything, Everything』の名演で知られるこの曲をいまアップデートさせたことの意味がここで掴めた。じっくりと再会の感触を味わっているような会場のムードは「Two Months Off」のループするイントロから一気に親密になる。そう、「2ヵ月の休み」どころではない5年間の距離が彼らの音とオーディエンスの熱気で一気に埋まった。「小さく描かれたハート/その隣には感嘆符」というオリジナルのリリックの通り、スクリーンに赤い手描きのハートとビックリマークが登場し、ステージと客席の距離の親密さを象徴している。リックとカールも喜びを隠さず、ステージ上でハグする。
定評のある映像とのコラボレーションは健在で、決して派手ではないが、ステージ後方のスクリーンとライティングが彼らのイマジネイティブなサウンドを的確にサポートする。『DRIFT Series1』から「S T A R」がプレイされると、スクリーンにリリックに登場する“スター”たちの名前が次々映し出される。同じく「ドリフト」シリーズから「Border Country」のトランシーなうねるベースラインが幻惑させる。今回の来日公演は、2018年11月から毎週新たなマテリアルを発表するという実験的プロジェクト『DRIFT Series1』の楽曲がステージでどのように表現されるのかも注目されたが、代表曲の間に実に違和感なく組み込まれていたことは特筆したい。
不穏なピアノのリフがワイルドなムードを増幅させる「Push Upstairs」の後プレイされたのは、なんと90年代初期のアシッド・ハウスなナンバー「Why Why Why」。初来日した94年頃のシーンの空気を思い起こさせる、ふたりからのサプライズだ。この曲が終わるや否やカールは待ちかねたように「ありがとう、客電を付けてくれるかな、みんなを見たいんだ」と、オーディエンスとの再会を喜ぶ。「ほんとうに長かった、だろ?日本!ここは私たちにとって第2のホームのようなところなんだ」という彼の言葉に、客席は歓喜の声で迎える。続いて演奏されたのが、映画『ザ・ビーチ』のサントラに提供した「8 Ball」。渋谷のスクランブル交差点を上空から捉えた映像と開放的な音の手触りの違和感が心地よい。ここが、90分の熱狂的なセットの唯一ゆったりとしたパートだったろうか。大阪のセットリストにも入っていなかったこの中盤の2曲は、長きにわたりアンダーワールドを愛してきたファンへの彼らからのプレゼントと言えるだろう。
後半は“鉄板”の連続。彼らのロマンティシズムが全開の「Jumbo」がそのシングルのアートワークと同じレッドとイエローのライティングに照らされるなか披露され、カールが満面の笑みを浮かべる。暴力的な「King of Snake」のビートが鳴り響くと、アリーナからは狂乱状態の叫び声が止まない。音の中枢を担うリックの後ろで、カールが背中をあわせおどける。「Rez / Cowgirl」の人間の本能を呼び覚ますグルーヴ、エレクトロニックな音色を用いて肉感的なグルーヴを生み出してきた彼らのクラシックだ。白いブラウスを揺らめかせながらとにかく自由に歌い踊り、妖精のようにステージを駆け回っていたカールが感極まったように「みんな気分はどうだい!?」と叫ぶ。
疾走感に満ちた「Dark & Long (Dark Train)」が終わると、カールが再び客席へ感謝を述べる「みんな、こんなに長く辛抱強く待ってくれてありがとう。離れ離れだったけれど、みんなまだ踊りたがってくれている。アメイジングだ」。そして共演したサカナクションにも「並外れて、とても勇敢で、素晴らしかった」と賛辞を送ったあと、ラストは、誰もがこれがくるだろう期待し、盛り上がらずにはいられない「Born Slippy .NUXX」。あのシンセコードが鳴り響いた瞬間の東京ガーデンシアターは、おそらく世界で最も解き放たれた場所だったと思う。30年にわたりエレクトロニック・ミュージックの前線でチャレンジしてきた彼らが、コロナ禍の分断された世界に対して「帰ってくる場所」としてこの野放図なエナジーを提示してくれたことを素直に喜びたい。「メイク・サム・ノイズ!」とカールがシャウトする。鳴り止まぬシンセの響きのなか、UNDERWORLDのロゴが映されたスクリーンをバックにふたりが肩を組んで一礼し、そのキャリアを網羅する圧巻のセットが幕を閉じた。
Text by 駒井憲嗣
【公演情報】
https://www.creativeman.co.jp/artist/2022/07underworld_sakanaction/
【商品情報】
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12791
現在アンダーワールドが所属するデザイン集団TOMATOデザインによる最新ロゴTシャツと2019年のアルバム『DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION』をセットにした来日記念盤が好評発売中!Tシャツは、アンダーワールドの最新ロゴを胸に、アンダーワールドの公式グッズを扱うUNDERWORLD APPARELのロゴを背中にあしらったオリジナル・デザインで、2枚組デラックス・エディションには黒Tシャツ、通常盤は白Tシャツがセットとなる。また『DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION』は、2枚組デラックス・エディションと通常盤それぞれが来日記念のスペシャル・プライスで発売中。
「日本は私たちにとって第2のホーム」キャリアを網羅する圧巻の一夜
「前回の日本での演奏から1838日……ついに帰ってきた!」2017年9月の「ULTRA JAPAN 2017」以来となる来日を果たしたカール・ハイドとリック・スミス。SNSで“帰還”を報告した彼らが大阪公演に続き登場した東京ガーデンシアターは、横長にとられたアリーナと4層のバルコニーを持ち、ステージとの一体感と劇場の荘厳さの双方を体験できる、5年ぶりとなるアンダーワールドの東京公演にふさわしいヴェニューと言えよう。
BGMとして流れていた、彼らが音楽監督を務めた2012年のロンドンオリンピック提供曲「Caliban’s Dream」が終わり場内が暗くなると、コックピットのように中央に機材をセッティングしたステージにふたりが現れ、今年新たなバージョンがリリースされた「Juanita 2022」のイントロが鳴り響く。「there is a sound on the other side on this wall」というカールの歌い出しでフロアがどよめく。2000年のライヴ盤『Everything, Everything』の名演で知られるこの曲をいまアップデートさせたことの意味がここで掴めた。じっくりと再会の感触を味わっているような会場のムードは「Two Months Off」のループするイントロから一気に親密になる。そう、「2ヵ月の休み」どころではない5年間の距離が彼らの音とオーディエンスの熱気で一気に埋まった。「小さく描かれたハート/その隣には感嘆符」というオリジナルのリリックの通り、スクリーンに赤い手描きのハートとビックリマークが登場し、ステージと客席の距離の親密さを象徴している。リックとカールも喜びを隠さず、ステージ上でハグする。
定評のある映像とのコラボレーションは健在で、決して派手ではないが、ステージ後方のスクリーンとライティングが彼らのイマジネイティブなサウンドを的確にサポートする。『DRIFT Series1』から「S T A R」がプレイされると、スクリーンにリリックに登場する“スター”たちの名前が次々映し出される。同じく「ドリフト」シリーズから「Border Country」のトランシーなうねるベースラインが幻惑させる。今回の来日公演は、2018年11月から毎週新たなマテリアルを発表するという実験的プロジェクト『DRIFT Series1』の楽曲がステージでどのように表現されるのかも注目されたが、代表曲の間に実に違和感なく組み込まれていたことは特筆したい。
不穏なピアノのリフがワイルドなムードを増幅させる「Push Upstairs」の後プレイされたのは、なんと90年代初期のアシッド・ハウスなナンバー「Why Why Why」。初来日した94年頃のシーンの空気を思い起こさせる、ふたりからのサプライズだ。この曲が終わるや否やカールは待ちかねたように「ありがとう、客電を付けてくれるかな、みんなを見たいんだ」と、オーディエンスとの再会を喜ぶ。「ほんとうに長かった、だろ?日本!ここは私たちにとって第2のホームのようなところなんだ」という彼の言葉に、客席は歓喜の声で迎える。続いて演奏されたのが、映画『ザ・ビーチ』のサントラに提供した「8 Ball」。渋谷のスクランブル交差点を上空から捉えた映像と開放的な音の手触りの違和感が心地よい。ここが、90分の熱狂的なセットの唯一ゆったりとしたパートだったろうか。大阪のセットリストにも入っていなかったこの中盤の2曲は、長きにわたりアンダーワールドを愛してきたファンへの彼らからのプレゼントと言えるだろう。
後半は“鉄板”の連続。彼らのロマンティシズムが全開の「Jumbo」がそのシングルのアートワークと同じレッドとイエローのライティングに照らされるなか披露され、カールが満面の笑みを浮かべる。暴力的な「King of Snake」のビートが鳴り響くと、アリーナからは狂乱状態の叫び声が止まない。音の中枢を担うリックの後ろで、カールが背中をあわせおどける。「Rez / Cowgirl」の人間の本能を呼び覚ますグルーヴ、エレクトロニックな音色を用いて肉感的なグルーヴを生み出してきた彼らのクラシックだ。白いブラウスを揺らめかせながらとにかく自由に歌い踊り、妖精のようにステージを駆け回っていたカールが感極まったように「みんな気分はどうだい!?」と叫ぶ。
疾走感に満ちた「Dark & Long (Dark Train)」が終わると、カールが再び客席へ感謝を述べる「みんな、こんなに長く辛抱強く待ってくれてありがとう。離れ離れだったけれど、みんなまだ踊りたがってくれている。アメイジングだ」。そして共演したサカナクションにも「並外れて、とても勇敢で、素晴らしかった」と賛辞を送ったあと、ラストは、誰もがこれがくるだろう期待し、盛り上がらずにはいられない「Born Slippy .NUXX」。あのシンセコードが鳴り響いた瞬間の東京ガーデンシアターは、おそらく世界で最も解き放たれた場所だったと思う。30年にわたりエレクトロニック・ミュージックの前線でチャレンジしてきた彼らが、コロナ禍の分断された世界に対して「帰ってくる場所」としてこの野放図なエナジーを提示してくれたことを素直に喜びたい。「メイク・サム・ノイズ!」とカールがシャウトする。鳴り止まぬシンセの響きのなか、UNDERWORLDのロゴが映されたスクリーンをバックにふたりが肩を組んで一礼し、そのキャリアを網羅する圧巻のセットが幕を閉じた。
Text by 駒井憲嗣
【公演情報】
https://www.creativeman.co.jp/artist/2022/07underworld_sakanaction/
【商品情報】
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12791
現在アンダーワールドが所属するデザイン集団TOMATOデザインによる最新ロゴTシャツと2019年のアルバム『DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION』をセットにした来日記念盤が好評発売中!Tシャツは、アンダーワールドの最新ロゴを胸に、アンダーワールドの公式グッズを扱うUNDERWORLD APPARELのロゴを背中にあしらったオリジナル・デザインで、2枚組デラックス・エディションには黒Tシャツ、通常盤は白Tシャツがセットとなる。また『DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION』は、2枚組デラックス・エディションと通常盤それぞれが来日記念のスペシャル・プライスで発売中。