Emma-Jean Thackray @ SHIBUYA WWW X 9/15(Thu)
エマ・ジーン・サックレイはWWW Xのステージで何度も「夢が叶った」と口にした。オーストラリア、ニュージーランドと続いてきたツアーの最終地点となる日本は、昨年リリースしたアルバム『Yellow』で彼女が描いたサイケデリックな旅の末、夢想するユートピアを具現化するのにふさわしい場所だったに違いない。
“こんにちは、ジャズ・クラブへようこそ、すばらしいジャズの世界をお届けします”というMCのサンプリングを口火に、コズミックなフリージャズ的イントロから幽玄なアンサンブルが匂い立つ「Mercury」でこの夜のセットはスタートした。続くUKガラージとプログレを思わせるキーボードが融合した「Say Something」で、フロアの温度が急激に上昇していく。
プロデュース、レコーディング、アレンジまでを手掛けるマルチアーティストとして知られる彼女だが、今回のステージではヴォーカルとトランペットをメインに、手元のサンプラーやエフェクターを駆使し、ディレイやライブダブを次々に施していく。同時に、VELS TRIOでも活躍するドラムスのドーガル・テイラーをはじめ、ベースのマット・ゲドリック、キーボードのリトル・バートンという凄腕が揃うバンドを自在にコントロールしていく。細やかなプロダクションのテクスチャーに関心が向かいがちだった音源に比べ、パワフルなヴォーカリゼーションと、各曲の出だしで片手を挙げてタイミングを指示しながら、あらゆるグルーヴを一寸の狂いなくつかさどるコンダクターとしての姿が際立つ。
「少し疲れてるけど(笑)、遂にここに来れた!」とオーディエンスに感謝を述べた後、メロウな「Golden Green」。リリックにもある、ビスケットとウィードの匂いが漂ってきそうな官能的で気怠いムードが、緑のライティングに彩られた会場を覆う。続いて、数週間前までショーでは演奏したことがなかったという「Speak No Evil (Night Dreamer)」をプレイ。2020年のコンピレーション『Blue Note Re:imagined』収録、ウェイン・ショーターの名曲をブロークンビーツで解釈し、一躍彼女の名前を世に知らしめたこの曲を生で聴けるのは今ツアーならでは、日本のファンへの嬉しいプレゼントだ。
「Venus」に入る前のMCで、彼女は宇宙というモチーフが自身にとっていかに重要か説明する。父からの影響で仏教を知りヴィーガンとなり、「私たちすべてが惑星であり、植物であり、動物であり、同じところからうまれた、ひとつのものである」という考えに至った。その思想は『Yellow』に色濃く表れているが、彼女はそれを言葉だけでなくグルーヴで表現しようと試みる。5/4拍子のアフロ・ファンク「Venus」はそのままアシュレイ・ビードル率いるブラック・サイエンス・オーケストラによるリミックス・バージョンをライヴ仕様にアップデートしたバンガー「Venus (remix)」へ。そして「Sun」は音源ではロータリー・コネクションを思わせるサイケデリック・ソウルだったが、ライヴではダイナミックなディスコチューンに変貌。何度も繰り返される「Brighter days are come」というメッセージが胸に迫ってくる。キーボードのソロが次第に消え入るエンディングで気の遠くなるような恍惚を感じながら、パーカッションが鳴り響き「Yellow」に繋がれていく。この曲に代表されるように、彼女は一貫して自伝的な言葉や表現ではなく、人々をひとつにまとめ団結すること、コミュニティを鼓舞するメッセージをチャントのように放つ。その姿勢は、ニューオリンズ的リズムが疾走感を煽る「Our People」で本編を締めくくるまで変わらなかった。「We are all our people」というシャウトは、いまの時代に必要とされるオプティミスティックなメッセージとして鳴り響いた。
祝祭感に満ちたグルーヴに身体をまかせながら、果たして、これもジャズと形容していいのか!という驚きが何度も湧き上がった。冒頭以外にも時折挟み込まれた声ネタのサンプルで明らかなように、自身もジャズが基盤にあることを殊更提示していたし、90年代以降のクラブジャズのムーヴメントを挙げるまでもなく、UKジャズとダンスミュージックはいつでもクロスオーバーしてきたが、ここまで様々な音楽性を飲み込むキャパシティがあるのか、という再発見があった。それを着席の箱ではなく、スタンディングのライブハウスで体感できる貴重な機会だった。
拍手と歓声が鳴り止まぬなか、アンコールに応え登場した4人が演奏したのは2020年発表の「Movementt」。彼女なりのダンスフロアへの愛情を捧げた曲と言ってもいい90’s NU JAZZへのトリビュートのようなこの曲で締めくくったことも、彼女がダンスミュージックと彼女のメッセージが不可分であることを証明していた。
駒井憲嗣
エマ・ジーン・サックレイの初来日公演、大阪は今夜開催!
公演詳細
2022年9月16日(金)Billboard Live Osaka
1st Stage: OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Stage: OPEN 20:00 / START 21:00
Service Area:¥7,500 / Casual Area:¥7,500(1ドリンク付)
※価格は税込み ※未就学児(6歳未満)入場不可
お問い合わせ:ビルボードライブ大阪
TEL:06-6342-7722
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13533&shop=2
企画・制作・招聘: Live Nation Japan
協力:Beatink
エマ・ジーン・サックレイのデビューアルバム『Yellow』は現在好評発売中!国内盤CDにはボーナストラック「Road Trip To Saturn」が収録され、歌詞対訳・解説が付属する。
エマ・ジーン・サックレイはWWW Xのステージで何度も「夢が叶った」と口にした。オーストラリア、ニュージーランドと続いてきたツアーの最終地点となる日本は、昨年リリースしたアルバム『Yellow』で彼女が描いたサイケデリックな旅の末、夢想するユートピアを具現化するのにふさわしい場所だったに違いない。
“こんにちは、ジャズ・クラブへようこそ、すばらしいジャズの世界をお届けします”というMCのサンプリングを口火に、コズミックなフリージャズ的イントロから幽玄なアンサンブルが匂い立つ「Mercury」でこの夜のセットはスタートした。続くUKガラージとプログレを思わせるキーボードが融合した「Say Something」で、フロアの温度が急激に上昇していく。
プロデュース、レコーディング、アレンジまでを手掛けるマルチアーティストとして知られる彼女だが、今回のステージではヴォーカルとトランペットをメインに、手元のサンプラーやエフェクターを駆使し、ディレイやライブダブを次々に施していく。同時に、VELS TRIOでも活躍するドラムスのドーガル・テイラーをはじめ、ベースのマット・ゲドリック、キーボードのリトル・バートンという凄腕が揃うバンドを自在にコントロールしていく。細やかなプロダクションのテクスチャーに関心が向かいがちだった音源に比べ、パワフルなヴォーカリゼーションと、各曲の出だしで片手を挙げてタイミングを指示しながら、あらゆるグルーヴを一寸の狂いなくつかさどるコンダクターとしての姿が際立つ。
「少し疲れてるけど(笑)、遂にここに来れた!」とオーディエンスに感謝を述べた後、メロウな「Golden Green」。リリックにもある、ビスケットとウィードの匂いが漂ってきそうな官能的で気怠いムードが、緑のライティングに彩られた会場を覆う。続いて、数週間前までショーでは演奏したことがなかったという「Speak No Evil (Night Dreamer)」をプレイ。2020年のコンピレーション『Blue Note Re:imagined』収録、ウェイン・ショーターの名曲をブロークンビーツで解釈し、一躍彼女の名前を世に知らしめたこの曲を生で聴けるのは今ツアーならでは、日本のファンへの嬉しいプレゼントだ。
「Venus」に入る前のMCで、彼女は宇宙というモチーフが自身にとっていかに重要か説明する。父からの影響で仏教を知りヴィーガンとなり、「私たちすべてが惑星であり、植物であり、動物であり、同じところからうまれた、ひとつのものである」という考えに至った。その思想は『Yellow』に色濃く表れているが、彼女はそれを言葉だけでなくグルーヴで表現しようと試みる。5/4拍子のアフロ・ファンク「Venus」はそのままアシュレイ・ビードル率いるブラック・サイエンス・オーケストラによるリミックス・バージョンをライヴ仕様にアップデートしたバンガー「Venus (remix)」へ。そして「Sun」は音源ではロータリー・コネクションを思わせるサイケデリック・ソウルだったが、ライヴではダイナミックなディスコチューンに変貌。何度も繰り返される「Brighter days are come」というメッセージが胸に迫ってくる。キーボードのソロが次第に消え入るエンディングで気の遠くなるような恍惚を感じながら、パーカッションが鳴り響き「Yellow」に繋がれていく。この曲に代表されるように、彼女は一貫して自伝的な言葉や表現ではなく、人々をひとつにまとめ団結すること、コミュニティを鼓舞するメッセージをチャントのように放つ。その姿勢は、ニューオリンズ的リズムが疾走感を煽る「Our People」で本編を締めくくるまで変わらなかった。「We are all our people」というシャウトは、いまの時代に必要とされるオプティミスティックなメッセージとして鳴り響いた。
祝祭感に満ちたグルーヴに身体をまかせながら、果たして、これもジャズと形容していいのか!という驚きが何度も湧き上がった。冒頭以外にも時折挟み込まれた声ネタのサンプルで明らかなように、自身もジャズが基盤にあることを殊更提示していたし、90年代以降のクラブジャズのムーヴメントを挙げるまでもなく、UKジャズとダンスミュージックはいつでもクロスオーバーしてきたが、ここまで様々な音楽性を飲み込むキャパシティがあるのか、という再発見があった。それを着席の箱ではなく、スタンディングのライブハウスで体感できる貴重な機会だった。
拍手と歓声が鳴り止まぬなか、アンコールに応え登場した4人が演奏したのは2020年発表の「Movementt」。彼女なりのダンスフロアへの愛情を捧げた曲と言ってもいい90’s NU JAZZへのトリビュートのようなこの曲で締めくくったことも、彼女がダンスミュージックと彼女のメッセージが不可分であることを証明していた。
駒井憲嗣
エマ・ジーン・サックレイの初来日公演、大阪は今夜開催!
公演詳細
2022年9月16日(金)Billboard Live Osaka
1st Stage: OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Stage: OPEN 20:00 / START 21:00
Service Area:¥7,500 / Casual Area:¥7,500(1ドリンク付)
※価格は税込み ※未就学児(6歳未満)入場不可
お問い合わせ:ビルボードライブ大阪
TEL:06-6342-7722
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13533&shop=2
企画・制作・招聘: Live Nation Japan
協力:Beatink
エマ・ジーン・サックレイのデビューアルバム『Yellow』は現在好評発売中!国内盤CDにはボーナストラック「Road Trip To Saturn」が収録され、歌詞対訳・解説が付属する。