Dubsetter
Lee "Scratch" Perry & Adrian Sherwood
RELEASE: 2009.01.28
「俺はこのアルバムを誇りに思っている。自分の長年のキャリアの中で久しぶりに創ったダブ・アルバムだし、絶好調のリーとまた一緒に仕事ができるのはスゴく嬉しいよ!」
〜エイドリアン・シャーウッド
リー&エイドリアン、2人の溢れるイマジネーション!!
世界に類を見ない異端パフォーマー/エンターテイナーとして各ジャンルから熱烈な支持を得ているリー"スクラッチ”ペリー。そして、ダブの可能性を常に広げ続けている鬼才プロデューサー、エイドリアン・シャーウッド。両者のコラボレーション作品としては87年の『Time Boom X De Devil Dead』、90年の『From The Secret Laboratory』の2作品があるわけだが(ペリーがゲスト参加したエイドリアン作品は除く)、2008年にリリースされた『The Mighty Upsetter』は、競演3作目にして最高の成果を上げた作品だった。
今作で最大のインパクトを持っていたのが、ペリーがかつてプロデューサーとして作り上げた数々の名トラックを現代のものとしてリメイクしていたこと。過去のトラックのリメイクはジャマイカのダンスホール含めてレゲエ・カルチャーのなかで常に行われてきたものだが、エイドリアンはそれをイギリスに生きる白人プロデューサーとしての視点からアップデートしてみせた。つまり、ダブ・ステップなどを含む現代のベース・ミュージックのひとつとしてペリーの仕事を評価し直し、その現代性を浮き上がらせてみせたのである。そして、そこに乗るペリーの呟き。日本盤にはその日本語訳も掲載されているが、イマジネーションに溢れたペリーの言葉は時に大人げない悪ふざけに思えることもあるし、バビロンに舌を出している風でもある。デタラメのようでいて、難解な宇宙観が反映されてもいるこれらの言葉を聴き(読み)ながら、「ここ20数年で最高のリー・ペリーのアルバム」というエイドリアン自身の発言に僕は共感せざるを得なかったのである。
エイドリアン・シャーウッドが生み出す、“魔法”の数々!!ダブの名盤が、また一枚歴史にその名を刻む!!!
この『Dubsetter』というアルバムは、その『The Mighty Upsetter』のダブ・アルバム。ただし、オリジナルの音源を解体・再構築していく通常の「ダブ・アルバム」とは違うスタイルによって今作は制作されている。例えば、この『Dubsetter』には『The Mighty Upsetter』でクレジットされていないプレイヤーが数多く名を連ねている。ブラジルのサンパウロとサルバドールで録音されたと思わしき一部のパーカッション演奏は今回改めて追加収録されたものだし、ダグ・ウィンビッシュ(タックヘッド〜リヴィング・カラー)やベテラン・サックス・プレイヤーのデッドリー・ヘッドリーも今回新たにクレジットされた。いくつかの楽曲は原曲のリミックス・ヴァージョンと言える程度の原型を留めているものの、数曲では大幅にパートを追加され、ほぼ別ヴァージョンとも言うべき楽曲となっているのである。
そういった意味で今作は、『The Mighty Upsetter』のなかにあったペリーとエイドリアンのバランスがグッとエイドリアン寄りにしたアルバムとは言える。だが、込められたエイドリアンの気迫、そして、ふと現れるペリーの言葉。これらが生み出す緊迫感は、『The Mighty Upsetter』とは異なるスリルを僕らに与えてくれるのである。
"ダブ・アルケミスト"によるまぎれもなく、これはもうひとつの『The Mighty Upsetter』である!!
パンキッシュで時にメタリックな質感を持つON-Uサウンドを毛嫌いするストリクトリーなレゲエ・ファンは決して少なくないが、その一部は『The Mighty Upsetter』を聴いてその思いを改めざるを得なかった。この『Dubsetter』はそうしたリスナーをさらに虜にする力を秘めてもいるし、より広範囲に届けられるべき創造力(想像力)、アイデア、密度がここには詰まっている。『Dubsetter』をただのダブ・アルバムと言うべきではない。これは「もうひとつの『The Mighty Upsetter』」だ。
大石 始 (ライター/エディター)