Fat Dog @Electric Brixton 18/04/2024
カール・オルフ作カルミナ・ブラーナからの『O Fortuna』が壮大に響き渡る会場に大歓声を受けて登場したのは、英俳優のニール・ベル。Fat Dogファンにはすでに馴染みの顔だ。タイムトラベルと父性についての不条理な物語を歌った2枚目のシングル「All The Same」MVに出演している同氏は、あの表情のまま、永遠とも思われる勝利のスピーチを聴衆に浴びせる。「今夜君たちはFat Dogを選んだ。危険地帯のど真ん中にいるのだ!」。
ロンドン・ブリクストンでFat Dogを観た。
ブリクストンとは言っても、古巣Windmillではない。
今回はそのキャパ約10倍のエレクトリック・ブリクストン。
Fat Dogはライブ・パフォーマンスの凄さが口コミで広がり、音源も出ないうちにファンを獲得していった新進気鋭のバンドだ。
ダーク・ドラマさながらに始まった序章の中、メンバー登場。ジャーマン・シェパードのマスク被ったドラムのジョニー・ハッチンソンは、オーディエンスに向けて力強く拳を挙げるが、口からだらりと垂れた舌が場違いなほどシュールだ。ライブ演奏は初めてとなる「Bosh」でショーはスタート。フロントマンのジョー・ラヴは、ステージに現れたかと思うとすぐにクラウドに混じり込み、フロアは瞬く間にモッシュピットに突入する。
続く7分間のオデッセイ「King Of The Slugs」で、ベース・イントロからオーディエンスは「Oi!Oi!」の掛け声とともに縦ノリジャンプ。ガレージ/ハイプ/スカ/サイケのハイブリッドで、一言では語れない音調、展開、狂逸な歌詞の複雑な曲だが、ライブではそこに豊かな攻撃力が加わる。全身白をまとったジョーは、まるで降りてきたカルト教祖のようなカリスマでもって、両手を広げ、カウボーイハットをオーディエンスに掲る。
ジョーが、オーディエンスを半分に分けて道を作らせ、フロアを闊歩しながら歌う「I am The King」やクリスとモーガンがコレオグラフ・ダンスを見せる「Wither」に加え、「Boomtown」では、クリスとベンがステージを降り、クラウドに混ざると、そこからロブスターが登場する。バンドはライブ・パフォーマンスを宣伝材料とし、勢いをつけてきた。
「Fat Dogの音楽は、脳よりも身体で感じる音楽」とは、シンセ/キーボードのクリスの言葉だが、彼らはライブのダイナミクスを完璧に理解し、どう演出するかを心得ている。というのも、フロアで繰り広げられるカオスとは対照的に、演奏はタイトで無駄が無く、むしろ入念に構成されているようにすら聞こえるからだ。
そして、そのカオスを生み出すフロントマンは、ショーの半分以上をフロアで過ごすにもかかわらず、オーディエンスとは一体にはならない。イマーシブなショーではあるが、圧倒的な存在感を放つジョーは、決してオーディエンスに迎合しないのだ。
「Vigilante」で再びニール・ベルが登場。イントロのスポークン・ワードを力強く訴えかけるように朗読するが、演奏しているバンドとは一切触れあわず、目も合わせない。その姿勢がシリアスさを増す。そんな攻撃的とも言えるセットのなかで、異彩を放っていたのは、Benny Benassi and The Bizのカバー『Satisfaction』。20年以上も前にリリースされたこのスピーチ・シンセサイザーによるエレクトロ・ハウスを敢えて彼らがライブカバーしたのは、いささか変わり種のようにも感じたが、モーガンのサックス主導でFat Dogサウンドに変容しているから面白い。
そう、このバンドにはサックス奏者がいるのだ。結成当時のルールに「音楽にサックスを持ち込まないこと」というのがあったそうだが、皮肉にもモーガンのサックスがFat Dog の音楽の根幹を成し、ジャンルに束縛されない、唯一無二のサウンドに押し上げている。さらに、今回のライブを特別にしたものに、ステージ奥に映し出されたヴィジュアル・アーツがあった。サイケデリックな色彩で映し出されるメンバー(とニール・ベル)やグラフィック・アートと音楽とのシンクは、あまりにも多くのことが起こりすぎている彼らのサウンドを強烈に視覚化し、オーディエンスの脳内に叩きつける。
3月に行われたSXSWを含む、米ツアーの大成功により、さらに自信をつけたバンドのホームカミング・ギグは、アンコール無しの約60分、フロアにビールと汗と蒸気を残して終了した。
ブリクストンのウィンドミル・シーンから登場し、同じ通りのエレクトリックを制覇した今、さらに通りを登った、アカデミーでプレイする日はそう遠くないかもしれないと予感してしまったのは時期尚早だろうか。今回、中規模ヴェニューでのライブを目撃できたことがいかにラッキーだったかは、終演後、Tシャツを買う客、アルバムをプレオーダーする客でマーチャンダイズがごった返していたことが証明している。
我々は今後もFat Dog を選び続けるだろう。危険地帯のど真ん中にいるのがこんなに幸運だと思えるのだから。
Text by 近藤麻美
FAT DOG JAPAN TOUR
SUPPORT ACT: bed
OSAKA - 12.02 (MON) Yogibo META VALLEY
NAGOYA - 12.03 (TUE) CLUB QUATTRO
TOKYO - 12.04 (WED) LIQUIDROOM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14257/
カール・オルフ作カルミナ・ブラーナからの『O Fortuna』が壮大に響き渡る会場に大歓声を受けて登場したのは、英俳優のニール・ベル。Fat Dogファンにはすでに馴染みの顔だ。タイムトラベルと父性についての不条理な物語を歌った2枚目のシングル「All The Same」MVに出演している同氏は、あの表情のまま、永遠とも思われる勝利のスピーチを聴衆に浴びせる。「今夜君たちはFat Dogを選んだ。危険地帯のど真ん中にいるのだ!」。
ロンドン・ブリクストンでFat Dogを観た。
ブリクストンとは言っても、古巣Windmillではない。
今回はそのキャパ約10倍のエレクトリック・ブリクストン。
Fat Dogはライブ・パフォーマンスの凄さが口コミで広がり、音源も出ないうちにファンを獲得していった新進気鋭のバンドだ。
ダーク・ドラマさながらに始まった序章の中、メンバー登場。ジャーマン・シェパードのマスク被ったドラムのジョニー・ハッチンソンは、オーディエンスに向けて力強く拳を挙げるが、口からだらりと垂れた舌が場違いなほどシュールだ。ライブ演奏は初めてとなる「Bosh」でショーはスタート。フロントマンのジョー・ラヴは、ステージに現れたかと思うとすぐにクラウドに混じり込み、フロアは瞬く間にモッシュピットに突入する。
続く7分間のオデッセイ「King Of The Slugs」で、ベース・イントロからオーディエンスは「Oi!Oi!」の掛け声とともに縦ノリジャンプ。ガレージ/ハイプ/スカ/サイケのハイブリッドで、一言では語れない音調、展開、狂逸な歌詞の複雑な曲だが、ライブではそこに豊かな攻撃力が加わる。全身白をまとったジョーは、まるで降りてきたカルト教祖のようなカリスマでもって、両手を広げ、カウボーイハットをオーディエンスに掲る。
ジョーが、オーディエンスを半分に分けて道を作らせ、フロアを闊歩しながら歌う「I am The King」やクリスとモーガンがコレオグラフ・ダンスを見せる「Wither」に加え、「Boomtown」では、クリスとベンがステージを降り、クラウドに混ざると、そこからロブスターが登場する。バンドはライブ・パフォーマンスを宣伝材料とし、勢いをつけてきた。
「Fat Dogの音楽は、脳よりも身体で感じる音楽」とは、シンセ/キーボードのクリスの言葉だが、彼らはライブのダイナミクスを完璧に理解し、どう演出するかを心得ている。というのも、フロアで繰り広げられるカオスとは対照的に、演奏はタイトで無駄が無く、むしろ入念に構成されているようにすら聞こえるからだ。
そして、そのカオスを生み出すフロントマンは、ショーの半分以上をフロアで過ごすにもかかわらず、オーディエンスとは一体にはならない。イマーシブなショーではあるが、圧倒的な存在感を放つジョーは、決してオーディエンスに迎合しないのだ。
「Vigilante」で再びニール・ベルが登場。イントロのスポークン・ワードを力強く訴えかけるように朗読するが、演奏しているバンドとは一切触れあわず、目も合わせない。その姿勢がシリアスさを増す。そんな攻撃的とも言えるセットのなかで、異彩を放っていたのは、Benny Benassi and The Bizのカバー『Satisfaction』。20年以上も前にリリースされたこのスピーチ・シンセサイザーによるエレクトロ・ハウスを敢えて彼らがライブカバーしたのは、いささか変わり種のようにも感じたが、モーガンのサックス主導でFat Dogサウンドに変容しているから面白い。
そう、このバンドにはサックス奏者がいるのだ。結成当時のルールに「音楽にサックスを持ち込まないこと」というのがあったそうだが、皮肉にもモーガンのサックスがFat Dog の音楽の根幹を成し、ジャンルに束縛されない、唯一無二のサウンドに押し上げている。さらに、今回のライブを特別にしたものに、ステージ奥に映し出されたヴィジュアル・アーツがあった。サイケデリックな色彩で映し出されるメンバー(とニール・ベル)やグラフィック・アートと音楽とのシンクは、あまりにも多くのことが起こりすぎている彼らのサウンドを強烈に視覚化し、オーディエンスの脳内に叩きつける。
3月に行われたSXSWを含む、米ツアーの大成功により、さらに自信をつけたバンドのホームカミング・ギグは、アンコール無しの約60分、フロアにビールと汗と蒸気を残して終了した。
ブリクストンのウィンドミル・シーンから登場し、同じ通りのエレクトリックを制覇した今、さらに通りを登った、アカデミーでプレイする日はそう遠くないかもしれないと予感してしまったのは時期尚早だろうか。今回、中規模ヴェニューでのライブを目撃できたことがいかにラッキーだったかは、終演後、Tシャツを買う客、アルバムをプレオーダーする客でマーチャンダイズがごった返していたことが証明している。
我々は今後もFat Dog を選び続けるだろう。危険地帯のど真ん中にいるのがこんなに幸運だと思えるのだから。
Text by 近藤麻美
FAT DOG JAPAN TOUR
SUPPORT ACT: bed
OSAKA - 12.02 (MON) Yogibo META VALLEY
NAGOYA - 12.03 (TUE) CLUB QUATTRO
TOKYO - 12.04 (WED) LIQUIDROOM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14257/