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Kassa Overall / 繊細かつ豪胆に新しい時代を切り開いていく野心とビジョンが爆発!

2023.10.20

Kassa Overall / 繊細かつ豪胆に新しい時代を切り開いていく野心とビジョンが爆発!

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Kassa Overall / 繊細かつ豪胆に新しい時代を切り開いていく野心とビジョンが爆発!

Photo by Daiki Miura

Kassa Overall 2023/10/19 東京@WWW X

ソールドアウトとなり満員のWWW Xのステージにスペシャルゲストとして最初に現れたのは、今夏〈Brainfeeder〉所属を発表したことも記憶に新しい長谷川白紙。冒頭の弾き語りからいつもの洪水のごとき音像をグッと抑えたプロダクションを展開していく。途中、「みなさん、カッサの新しいアルバム聴きました?ヤバくないですか(笑)」と興奮を抑えられない様子で、「すごいライヴが観れるの楽しみですね」と待望の来日を果たしたカッサにリスペクトを送る。カッサの音楽と呼応するように、彼のメロディラインとビート感覚の特異さとジャズの素養を浮き彫りにしたアクトだった。

20時をまわり、ステージ後方のスクリーンに最新作『Animals』でおなじみのロゴが現れ、カッサ・オーバーオールとバンドが登場する。「みんな準備は出来てる?」という一声の後、アルバムでも冒頭を飾った「Ready to Ball」。ピアノのイアン・フィンケルスタインによるモダン・ジャズなフレーズからスタートし次第に高揚感が高まっていくナンバーだ。この夜のメンバーはイアンのほか、ソプラノ・サックスのトモキ・サンダース、パーカッションのベンジー・アロンスと敏腕が集う。意外にもオープニングではカッサはドラムを叩かずヴォーカルに専念していたのだが、その後は曲ごとに(あるいは曲の途中で)目まぐるしく担当楽器を入れ替えてプレイしていくスタイルも含め、ステージから一瞬も目が離せない。加えて、スクリーンには終始マイルス・デイヴィス、サン・ラ、アリス・コルトレーンといったミュージシャンたちのライヴ映像が映し出されていて、あたかもジャズの偉人たちと交信しているようだ。

荘厳なコーラスのパートをはさみ、「Make My Way Back Home」へ。メランコリックなムードを持つ楽曲なのだが、「Tryna get back home / Where the love is real」というリリックをかみしめるようなカッサの歌と、トモキのソロがそれだけでない力強さを与える。ダイナミックなドラムソロでフロアを沸かせると、セカンド『I Think I'm Good』収録「Find Me」のカオティックでスリリングなアンサンブルになだれ込む。マックス・ローチ「Libra」のフレーズが挿入され、アロンスのコンガのパートが加わると疾走感がさらに強まっていく。

メロウな「Maybe We Can Stay」でもそうだが、彼のヴォーカルはメロディアスでありつつ、ラップとスポークンワードの間を漂う。決してハードコアではなく、むしろ生真面目さえ感じさせるようなスタイルが持ち味になっていて、彼が目指すポップ・ソングの方向性に大きな役割を果たしているように思える。続く「I Know You See Me」もその彼のメロディのセンスが発揮された曲で、「This train is bound to glory, this train」というリフレインで自然とシンガロングが起きるのも納得。客席がエモーショナルな一体感に包まれると、そのままパーカッシブなインプロビゼーションに突入し、トモキがカウベルを叩きながらフロアに飛び込み客席を駆け回ると、会場全体が騒然となる。

そしてスヌープ・ドッグのカヴァー「Drop It Like It's Hot」ではネプチューンズのミニマルなプロダクションをバンド・サウンドに見事に翻訳。ジャズとヒップホップの融合は90年代から行われてきたし、決して目新しいものではないけれど、『Animals』におけるエレクトロニックとアコースティックを境目なく使いこなす手法をライヴで再構築していくうえで、さらに実験的な要素を加えていく手腕は確かなもの。

メランコリックな「Lava Is Calm」から、トモキの美しいサックスをフィーチャーしハウシーなビートを強調した「No It Ain’t」へ。ライヴ運びにおいても、一見無軌道に見えながら、その緩急が至極計算されていることがうかがえ、そのバリエーションが決してとっちらかった印象にならず、カッサのパーソナリティとして集約されていく過程に唸らされる。「次の曲は頻繁にやらないんだけれど、ここで演奏するのが大切だと思って」と一呼吸置き、「Darkness In Mind」が始まる。ショパンの前奏曲4番の旋律が印象的なこの曲ではオートチューンまで駆使していて、フリーフォームな瞬間を随所に味わうことができた。

さらに後半の「Prison and Pharmaceuticals」の爆発的な盛り上がりはどうだ。パル・ジョイ(Soho)のハウス/ジャジー・ブレイク・クラシック「Hot Music」を引用したアレンジで、そもそも「Hot Music」がウィントン・マルサリス「Skain's Domain」のフレーズをサンプリングした曲であるだけに、ポップ・ミュージックの円環をここでも感じてやまなかった。

本編の最後、カッサはサプライズとして「ベンジーと同じフライトだった」とテデスキ・トラックス・バンドのケビ・ウィリアムズをステージに呼び込む。トモキが「マイヒーロー」と呼ぶレジェンダリーなサキソフォニストとともにセロニアス・モンク「Green Chimneys」を10分以上に及ぶ壮大なダンストラックに生まれ変わらせ、圧巻のステージは幕を閉じた。とかく異才、鬼才という呼び方をしてしまいたくなるけれど、とても理知的でバランス感覚に長けたアーティストであることを生のパフォーマンスで確認できた。『Animal』はそんな彼の動物的感性を呼び覚まそうとする試みの一貫であると言えるだろう。

鳴り止まぬアンコールの拍手に応え再びメンバーが登場。イアンがピアノで「戦場のメリークリスマス」「東風」の旋律を奏で坂本龍一を追悼し、カッサがオーディエンスに感謝を伝えると、2019年のデビュー作『Go Get Ice Cream and Listen to Jazz』から「Who’s on the Playlist」を演奏。彼の叙情性が色濃く現れている曲であり、繊細かつ豪胆に新しい時代を切り開いていく彼の野心とビジョンがいまも続いていることを感じることができる、胸に迫るエンディングだった。付け加えるなら、『I Think I'm Good』リリースのタイミングである2020年2月に来日公演を果たすも、コロナ禍によりその後の活動を中止せざるをえなかった彼にとって、『Animals』は〈Warp〉移籍後初というだけでなく、復活の狼煙をあげる作品でもあり、因縁の場所、日本でのパフォーマンスは感慨深いものだったに違いない。後半のMCで彼が口にした「アートを、そしてライブ・ミュージックをサポートし続けてほしい」という言葉の重みを噛み締めながら、余韻に浸った。

Text by 駒井憲嗣

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