Little Simz @ KANDA SQUARE HALL 9/21(WED)
満員の神田スクエアホール。2、3年前の『GREY Area』リリース時ならまだしも、2022年の現在、天下のリトル・シムズをこのサイズの箱で観られるなんて途方もない贅沢だ。本来ならばもっと大きい場所で、そうなるとバンドセットで……ともなろうが、今回はクラブライクなシチュエーションにて1MC+1DJのミニマムなステージを披露するという、これはこれでクールな体験。リトル・シムズが信頼を寄せるDJ、OSIRIS THE GOD a.k.a OTGが開演まで素晴らしいプレイでフロアをあたためる。Peggy Gou、Rema、Lojay等のハウス/テクノ~アフロビーツをミックスし、途中アマピアノも織りまぜながらシムズに流れるアフリカの血を讃えることで、ライブへの期待を高めた。
ついに、イントロが流れ観客がどよめく。もちろんオープニングは“Introvert”!フロア中の観客の胸の高鳴りが、荘厳なサウンドとともに盛りあがり熱くなっていく様子が感じられる。シムズは中央のマイクの前に立ち安定のラップを聴かせるが、簡素なステージからこんなにもゴージャスな音が聴こえてくることが信じられない。続いて、「Lady,Lady,Lady,Lady,Lady……」という掛け声。フロアから悲鳴があがる。“Two Worlds Apart”に突入だ。音源にあったソウル由来のあたたかさを感じさせながらも、加えて熱さも伴う力強いラップで世界観を表現していく。“I Love You,I Hate You”では、リリックで綴られる通りLoveとHateで逡巡する混乱した自身の焦燥感を、畳みかける怒涛の早口ラップで披露。スピーディーだがきちんと旋律も伝えるという、ストイックさと華やかさが同居した素晴らしいラップに唸る。
続いて“Offence”、“Boss”と『GREY Area』のナンバーへ。最新作『Sometimes I Might Be Introvert』よりもドープでダビーな音が、昨今のUKビートシーンに漂う怪しさを伝える。シムズはここではリリックに合わせストロングなラップをぶつけてきた。中盤の印象的なフレーズを自らキーボードで叩いた“Speed”もスリリングだったが、驚いたのは“one life,might live”。意外にもEP『DROP6』からの選曲である。抑制された音数のトラックの隙間を埋めるような形でシムズは身体を揺らし、端正な所作で会場にすんとした空気を生み出していく。このあたりは、さすが俳優やモデルとしても活躍しているこのラッパーの中に宿る審美性が顔を覗かせ、見惚れるしかない。
ハイライトは“101FM”だった。ステージから降りフロア前方を横断し、会場はこの日一番の熱狂に。“How Did You Get Here”での「熱唱」と形容したくなるような感情の機微を表現した豊かなラップに涙し、「女性同士、あなたが輝くのを見たい」と歌う“Woman”に共感し、最後は“Venom”で怒涛の70分間が閉幕。特にラストの“Venom”では、その凄まじい高速ラップに観客が唖然としたのは言うまでもないだろう。シムズのラップは一言一言がきちんと分離しており、それゆえに非常に律されたきびきびした発音として入ってきた。ラップするパートと感情を乗せて歌うパートをはっきりと分けているため、ラップがエモーションに引っ張られ崩れていくことがない。恐らく、その点もシムズの楽曲に格調高さを加えている。
しかし、格調高いだけではないのだ。コール&レスポンスで観客とコミュニケーションをとり、常に笑顔をこぼしながら優しい表情でショウを進めていた姿からは、絶妙なバランスの取り方を感じた。恐らく、この駆け引きの塩梅と根底に漂う色っぽさは、日本語の概念で言うところの“粋”にも近い。シムズは、“粋”だ。そしてそれは、今のヒップホップになかなか見ることのできない稀有なものだ。私たち日本人が嫉妬してしまうくらいに“粋”な舞台に、終演後深い溜息をつき、忘我するしかなかった。
Text by つやちゃん
【公演情報】
ODD BRICK FESTIVAL 2022
日時:2022年9月23日(金・祝)
開場:10:00am / 開演11:00am
会場:赤レンガ地区野外特設会場
https://oddbrickfes.com/
満員の神田スクエアホール。2、3年前の『GREY Area』リリース時ならまだしも、2022年の現在、天下のリトル・シムズをこのサイズの箱で観られるなんて途方もない贅沢だ。本来ならばもっと大きい場所で、そうなるとバンドセットで……ともなろうが、今回はクラブライクなシチュエーションにて1MC+1DJのミニマムなステージを披露するという、これはこれでクールな体験。リトル・シムズが信頼を寄せるDJ、OSIRIS THE GOD a.k.a OTGが開演まで素晴らしいプレイでフロアをあたためる。Peggy Gou、Rema、Lojay等のハウス/テクノ~アフロビーツをミックスし、途中アマピアノも織りまぜながらシムズに流れるアフリカの血を讃えることで、ライブへの期待を高めた。
ついに、イントロが流れ観客がどよめく。もちろんオープニングは“Introvert”!フロア中の観客の胸の高鳴りが、荘厳なサウンドとともに盛りあがり熱くなっていく様子が感じられる。シムズは中央のマイクの前に立ち安定のラップを聴かせるが、簡素なステージからこんなにもゴージャスな音が聴こえてくることが信じられない。続いて、「Lady,Lady,Lady,Lady,Lady……」という掛け声。フロアから悲鳴があがる。“Two Worlds Apart”に突入だ。音源にあったソウル由来のあたたかさを感じさせながらも、加えて熱さも伴う力強いラップで世界観を表現していく。“I Love You,I Hate You”では、リリックで綴られる通りLoveとHateで逡巡する混乱した自身の焦燥感を、畳みかける怒涛の早口ラップで披露。スピーディーだがきちんと旋律も伝えるという、ストイックさと華やかさが同居した素晴らしいラップに唸る。
続いて“Offence”、“Boss”と『GREY Area』のナンバーへ。最新作『Sometimes I Might Be Introvert』よりもドープでダビーな音が、昨今のUKビートシーンに漂う怪しさを伝える。シムズはここではリリックに合わせストロングなラップをぶつけてきた。中盤の印象的なフレーズを自らキーボードで叩いた“Speed”もスリリングだったが、驚いたのは“one life,might live”。意外にもEP『DROP6』からの選曲である。抑制された音数のトラックの隙間を埋めるような形でシムズは身体を揺らし、端正な所作で会場にすんとした空気を生み出していく。このあたりは、さすが俳優やモデルとしても活躍しているこのラッパーの中に宿る審美性が顔を覗かせ、見惚れるしかない。
ハイライトは“101FM”だった。ステージから降りフロア前方を横断し、会場はこの日一番の熱狂に。“How Did You Get Here”での「熱唱」と形容したくなるような感情の機微を表現した豊かなラップに涙し、「女性同士、あなたが輝くのを見たい」と歌う“Woman”に共感し、最後は“Venom”で怒涛の70分間が閉幕。特にラストの“Venom”では、その凄まじい高速ラップに観客が唖然としたのは言うまでもないだろう。シムズのラップは一言一言がきちんと分離しており、それゆえに非常に律されたきびきびした発音として入ってきた。ラップするパートと感情を乗せて歌うパートをはっきりと分けているため、ラップがエモーションに引っ張られ崩れていくことがない。恐らく、その点もシムズの楽曲に格調高さを加えている。
しかし、格調高いだけではないのだ。コール&レスポンスで観客とコミュニケーションをとり、常に笑顔をこぼしながら優しい表情でショウを進めていた姿からは、絶妙なバランスの取り方を感じた。恐らく、この駆け引きの塩梅と根底に漂う色っぽさは、日本語の概念で言うところの“粋”にも近い。シムズは、“粋”だ。そしてそれは、今のヒップホップになかなか見ることのできない稀有なものだ。私たち日本人が嫉妬してしまうくらいに“粋”な舞台に、終演後深い溜息をつき、忘我するしかなかった。
Text by つやちゃん
【公演情報】
ODD BRICK FESTIVAL 2022
日時:2022年9月23日(金・祝)
開場:10:00am / 開演11:00am
会場:赤レンガ地区野外特設会場
https://oddbrickfes.com/