INTRODUCTION
パンデミック、ブラック・ライヴズ・マター、アメリカ大統領選、グライムスも取り上げた気候変動……多くの問題が山積みのまま、激動の2020年が終わろうとしている。かつてない閉塞感が漂うなか、人々を支えたのは音楽の力。ガス・ダパートンが参加したベニー“Supalonely”などTikTok発ヒットが続出する一方、癒しを求めてアコースティック・サウンドの需要が高まり、テイラー・スウィフトがアーロン・デスナー(ザ・ナショナル)と作り上げた『folklore』を筆頭に、エイドリアン・レンカー、ディス・イズ・ザ・キット、ビビオなどの内省的でフォーキーな表現が広く支持された。BTSのジミンも賛辞を送った、ブルーノ・メジャーの静かなる傑作もロングヒットを記録している。
K-POPの大躍進とも連動するように、イェジやパク・へジンといった韓国のDJ/プロデューサーも、歌とビートの新境地を開拓した。コロナ禍でクラブが遠のいた反面、“うちで踊ろう”と言わんばかりにエレクトロニック・ミュージックは豊作。エラ・マイナスやジェシー・ランザ、アクトレスの深遠かつ躍動感に満ちたサウンドはとりわけ印象深い。
さらにシーンの最先端では、ジェンダーとセクシュアリティの自由を体現するパフューム・ジーニアス、アルカなどが多様性に富んだアルバムを発表。イヴ・トゥモアが「新世代のゴスペル」を掲げた、強烈なグラム表現もここに含まれるだろう。彼も在籍する名門〈Warp〉からは、2ヶ月連続の新作リリースで再び黄金時代を迎えているオウテカや、ザ・ウィークエンドとのコラボも相まって、よりポップなフィールドに乗り出したOPNことワンオートリックス・ポイント・ネヴァーも大きな存在感を放っていた。
また、〈Warp〉とも縁のあるブライアン・イーノが音楽活動50周年を迎え、その偉業がリイシューによって再検証されるとともに、彼が70年代に提唱したアンビエントや、ニューエイジ、ポストクラシカルといった音楽が、在宅時間の増えたコロナ禍のサウンドトラックとして注目されている。かつてイーノが紹介したジョン・ハッセルやララージの新作に加えて、リリカルな音世界を紡ぐ原摩利彦、独特な瞑想状態をもたらすジュリアナ・バーウィックなど、孤独を忘れて没入できる音楽が今こそ求められているようだ。
ジャズに目を向けると、カマシ・ワシントンが映画音楽の世界に本格進出し、ジャズとヒップホップの関係性を更新するカッサ・オーバーオールが台頭。そして、ヌバイア・ガルシアやシャバカ・ハッチングスを筆頭に、UK新世代の勢いが止まらない。このシーンの先駆者となったユセフ・カマールの両雄、ドラマーのユセフ・デイズがトム・ミッシュと発表したコラボ・アルバムや、鍵盤奏者/プロデューサーのカマール・ウィリアムスによる意欲作も攻めの姿勢を感じさせた。
さらにUKでは、The 1975やアイドルズなどのロック・アクトが次々とアルバム・チャート1位を奪取し、ロック復権のムードが高まっている。インディー・シーンも若くして先輩格のキング・クルールから、ソーリーなど個性豊かな新鋭バンドまで揃い踏み。さらに2021年には、ゴート・ガールやシェイムの待ち望まれた2作目に加えて、「張り詰めた緊張感によって埋め尽くされたカオスな音の旅」とNME誌が評する7人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロードが〈Ninja Tune〉からの世界デビューを控えている。〈Warp〉と電撃契約したスクイッドも大きな動きを見せるはずだ。
最後に、これを読んでいる誰もがそうだと思うが、2021年に何より期待したいのは来日公演の復活だ。楽しみにしていたライヴが片っ端から中止となり、本当に寂しい一年だった。1月にサンダーキャット、2月にスクエアプッシャーと必ず会えると信じて。
text by 小熊俊哉
『SIGN』『PLUS』の2作連続リリースに全音楽ファンが感涙!音の進化を止めないということ、そして、音楽を消費することに徹底的に逆らう姿勢が称賛を集めた。
The Quietus: Albums Of The Year 2020 #13
Stereogum: 50 Best Albums Of 2020 #38
The Wire: Releases of the Year 2020 #29
ele-king 2020年ベスト・アルバム #3
Pitchfork: 30 Best Electronic Music Releases
Arca "KiCk i”
多様なアイデンティティを志した、全く新しい姿を披露したアルカ。衝撃的な美しさに満ちたエクスペリメンタル・ポップが展開される4thアルバム。
ele-king: 2020年ベスト・アルバム #25
Bleep: Top 10 Albums of the Year 2020
Stereogum: 50 Best Albums Of 2020 #32
Pitchfork: 50 Best Albums of 2020 #40
Pitchfork: 30 Best Electronic Music Releases
Mikiki 年間人気レビュー ベスト100 #29
The Quietus: Albums Of The Year 2020 #75
The Needle Drop #77
CRACK: Top 25 Tracks of 2020 #13"
Adrianne Lenker “Songs and Instrumentals"
USインディーの至宝ビッグ・シーフの聲、エイドリアン・レンカー。アコースティック・ギターの響きに雨音や鳥のさえずり、優しく切ない歌声が交わう究極のフォーク・サウンド。
Music Magazine ロック[アメリカ/カナダ]#10
The New Yorker: The Best Music of 2020 #2
NPR: The 50 Best Albums Of 2020 #29
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #89
Pitchfork: 50 Best Albums of 2020 #11
Bruno Major “To Let A Good Thing Die”
ビリー・アイリッシュもお気に入り!とろけるような甘い歌声、心奪われる旋律が紡ぐ美しい物語のタペストリー。
タワレコメンアワード2020: 洋楽部門1位!
Dirty Projectors "5EPs”
ダーティー・プロジェクターズの新たな黄金期を一枚にまとめ上げた必聴盤。音楽の多様さ、豊饒さと共に、新たな冒険が始まる。
rockin'on: 年間ベスト・アルバム #48
加速するエモーション、世界を魅了するシンセ・ポップ・バンドが放つ6作目。
Consequence of Sound: Top 50 Albums of 2020 #30
NBHAP: 50 Best Albums Of 2020 #11
Georgia “Seeking Thrills”
新世代エレクトロ/シンセポップシーンに現れた期待の新星が奏でる眩いメロディとピュアな歌声に一瞬で心を掴まれるデビュー作。
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #24
Drift: Records of the Year #65
Gaffa (Denmark): 20 Best Albums of 2020 #20
Gigwise: 51 Best Albums of 2020 #46
PopMatters: 60 Best Albums of 2020 #31
Grimes “Miss Anthropocene”
超お騒がせ娘グライムス!人新世の女神が提示する、世界の終わりのヴィジョンがここに誕生。
rockin'on: 年間ベスト・アルバム #9
Crack: Top 50 Albums of 2020 #22
Paste: 50 Best Albums of 2020 #24
Gorilla vs. Bear: Albums of 2020 #29
Uncut: 75 Best Albums of 2020 #59
Julianna Barwick “Healing Is A Miracle”
時代が求めた奇跡の癒し。果てしなく響き渡る神秘の音が、新たな世界への扉を開く。
Crack: Top 50 Albums of 2020 #22
Paste: 50 Best Albums of 2020 #24
Gorilla vs. Bear: Albums of 2020 #29
Uncut: 75 Best Albums of 2020 #59
Jaga Jazzist “Pyramid”
〈Brainfeeder〉移籍第一弾作品!初のセルフ・プロデュース作は、冨田勲に敬意を表し、フェラ・クティに想いを馳せた会心作!
ele-king: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Jazz]
Drift: Records of the Year #77
Jarv Is... “Beyond The Pale”
ジャーヴィス・コッカー、新バンド“ジャーヴ・イズ”のデビュー作。ジャーヴィスらしさ満載の渾身のサウンド。
"Rough Trade: Albums of the Year 2020 #5
Mojo: 75 Best Albums of 2020 #7
Uncut: 75 Best Albums of 2020 #8
Kassa Overall “I Think I'm Good”
これが現代ジャズの最前線!ロバート・グラスパー、クリス・デイヴに続く新たな時代を築く大器が登場。
Music Magazine ジャズ10位
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #19
ele-king: 2020年ベスト・アルバム #14
ele-king: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Jazz]
月に吠えるストリートの詩人が唄うブルーで複雑な心境... 孤高の天才が放つ、フラストレーションの咆哮!
rockin'on: 年間ベスト・アルバム#50
ele-king: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Indie Rock]
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #54
Crack: Top 50 Albums of 2020 #21
Gorilla vs. Bear: Albums of 2020 #41
Little Dragon “New Me, Same Us”
"新しい自分、変わらない私たち" ユキミ・ナガノの唯一無二な歌声が創り上げる極上のオルタナティブ・ポップ
rockin'on: 年間ベスト・アルバム #44
Lapsley “Through Water”
“新しい経験を積み重ねていく決意”を胸に抱き、大人の女性として成長を遂げたラプスリー珠玉の名盤がここに誕生!
rockin'on: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Electronic]
The Lemon Twigs “Songs For The General Public”
リッチなハーモニーと卓越したポップ・センス、グラム・ロックのキラキラしたエネルギーとエキセントリックなシアター性をブレンドした3作目。
rockin'on: 年間ベスト・アルバム #31
Mojo: 75 Best Albums of 2020 #64
Uncut: 75 Best Albums of 2020 #56
Marihiko Hara “PASSION”
心に沁みる叙情的な響きの中に地下水脈のように流れる「強さ」を感じさせる原の音世界がぎゅっと詰まった全15曲
iTunes electronic chart 初登場1位
タイトルトラックのMVで森山未來とコラボレート!
海外メディア La Blogoth?queの人気企画「A STAY AWAY SHOW」にも出演!
MUZZ “Muzz”
インターポール、ザ・ウォークメン、ボニー・ライト・ホースマンのメンバーが組んだ新プロジェクト。上質かつ上品、一筋縄ではいかない大人のオルタナティブ・ロック。
NBHAP: 50 Best Albums Of 2020 #39
Drift: Records of the Year #97
Oneohtrix Point Never "Magic Oneohtrix Point Never"
異空間で広がり続ける革新性と大衆性を極めしOPNの原点の振り返りであり、同時に集大成でもある自伝的アルバムの傑作がここに。
ele-king: 2020年ベスト・アルバム #17
rockin'on: 年間ベスト・アルバム #34
rockin'on: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Electronic]
Bleep: Top 10 Albums of the Year 2020
Time: 10 Best Songs of 2020 #10
CRACK: 10 Best Music Videos of 2020
Pitchfork: 100 Best Songs of 2020 #75
Consequence of Sound: Top 50 Albums of 2020 #31
「なんてひどい世界、でも生き残ろう」 来たるべき未来への、2010年代後半のある個人のドキュメンタリーミュージック。
ele-king: 2020年ベスト・アルバム #20
Perfume Genius “Set My Heart On Fire Immediately”
愛、恋、セックス、記憶、身体をテーマにポピュラー音楽の神話に耳を傾け独自の神話を創造するこの一枚。
Consequence of Sound: Top 50 Albums of 2020 #4
The Quietus: Albums Of The Year 2020 #21
Billboard: 50 Best Albums of 2020 #26
NPR: The 50 Best Albums Of 2020 #35
Pitchfork: 50 Best Albums of 2020 #5
Squarepusher “Be Up A Hello”
これぞスクエアプッシャー!初期のサウンドと数多の革新に裏打ちされた軌跡が交錯する怒涛の楽曲群に前頭葉崩壊必至!
The Quietus: Albums Of The Year 2020 #7
真鍋大度監督によるMVも話題に!
The Needle Drop #89
Thundercat “It Is What It Is”
神業ベースの甘い旋律と歌声が絡み合う、”愛の迷い猫”が贈るセンチメンタル・スペースジャーニー。
GRAMMY Awards 2021 [Best Progressive R&B Album] ノミネート!
Uncut: 75 Best Albums of 2020 #5
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #56
Mojo: 75 Best Albums of 2020 #29
rockin'on: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Jazz]
ele-king: THE BEST ALBUMS OF THE YEAR [Jazz]
Yaeji “What We Drew”
“ファミリー・ビジネス(家族経営)”と呼ぶ、彼女と深い結びつきを持つコラボレーターたちと作り上げたポップでキュートな全12曲。
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #40
Uproxx: 50 Best Albums of 2020 #22
Gorilla vs. Bear: Albums of 2020 #13
Pitchfork: 30 Best Electronic Music Releases
Yves Tumor “Heaven To A Tortured Mind”
ソウル、ファンク、ポストパンク... 多彩を極めるカオティックな魑魅魍魎サウンド!新世紀のゴスペルが高らかに告げるオルタナティヴの未来像がここに!
The Skinny: Top 10 Albums of 2020 #4
Exclaim!: 50 Best Albums of 2020 #8
Stereogum: 50 Best Albums Of 2020 #13
Rough Trade: Albums of the Year 2020 #21
Pitchfork: 50 Best Albums of 2020 #7
2021年1月に授賞式があるグラミー賞!
ノミネートアーティストがずらり!
POP-UP SHOPやオンライン販売で話題になったグッズ(まだまだ受注受付中のものもあり!)から、限定のスペシャルな特典グッズまで!
Oneohtrix Point Never Goods
スペシャルな特典 etc
Grimes "Miss Anthropocene" お箸
イベントやフェスが次々と中止になり家で過ごす時間が増える中、たくさんの企画で楽しませてくれました。
今年は過去の名盤の高音質盤や豪華パッケージでのリイシューが盛りだくさん!
2020年はどんな年だったのか?
今年の3枚をバイヤー・プロモーター・識者の方々に選んでもらいました。
寺町知秀
ローソンエンタテインメント商品本部にて
洋楽バイヤーを担当
"Vacant"
"続・幻の湖"
"ロックはセクシーな音楽ではなくなった"と嘆かれる今、インディ・ロックシーンも多様な要素(とりわけR&Bやエレクトロ)を引用しつつ艶っぽさを演出していますが、その手腕においてDirty Projectorsは群を抜いているかと。元々引き出しが多い彼らですが、今回は5人の各メンバーがかわるがわるリード・ヴォーカルを取るという試みが面白く、このバンドの懐の深さを思い知らされました。YTAMO(ウタモ)さんの新作もよく聴きました。気高く美しいメロディとハーモニーが、スペイシーでサイケデリックな音響空間に交錯する唯一無二の音世界が広がっていて、仄かに漂うエキゾチシズムがまた情感をかき立ててくれます。最高にイマジネイティヴな、孤高のエクスペリメンタル・ポップ作品。
最後に手前味噌でスミマセン、私監修のコンピレーション『続・幻の湖』を紹介させて下さい。『幻の湖』シリーズ第2作目のテーマは""水""。様々な形態に変化する水のようなチルアウト・ミュージックを表現しています。そして、最新作をもうすぐリリース予定でして、今回は全曲書き下ろし楽曲のみで構成という渾身の一作なので、ぜひチェックしてみて下さい。
古賀元基
Tower Records 町田店
洋楽バイヤー
今年を統括すると英国ジャズシーンの中心にしてレーベル〈BLACK FOCUS〉創設者、KAMAAL WILLIAMSとの出会いにより、ジャズを探り続けるまさにブラックにフォーカスした一年でした。彼の作品『WU HEN』はストリート出身ならではの自由な発想力をジャズに投影した革新的な作品。その他、ADRIAN YOUNGの新レーベル〈JAZZ IS DEAD〉も注目。次にHELLO FOEVER『WHATEVER IS IT』もし、TODD RUNGDREN、BRIAN WILSONがマジカル・ミステリーツアーに参加してたら?60年代の思想とサウンドを現代に継承しカリフォルニアドリームが実現したサイケ・ポップアルバム。次にPINEGROVE『MARIGOLD』BIG THEIFなどオルタナフォーク勢の出現によりに90’エモ、シカゴ音響派から英国トラッドフォークがまた再評価されているのが面白いですね。2020年は誰にとっても忘れられない一年であったと思います。世界の情勢が変化しても人が音楽に寄り添い続ける存在である事は変わらず、今後も新たな音楽が生まれては人は音楽に魅了され恋し続けるのではないかと思います。
佐藤吉春
レコードショップ「TECHNIQUE( テクニーク )」、 ディストリビューター「EFD」を運営。
DOMMUNEにて新しい形での新譜を紹介する番組開始しました。
"STARGATE EP"
"TO KAIDO EP"
"ご存知のように今年は新型コロナ一色。シーンの動きもへったくれもない感じで、テクニークも例に漏れず、この時勢には抗えずに約20年間細々とやってきた宇田川町の店舗を閉め移転するに至りました。タイミング良く渋谷PARCOさんからのお誘いを受け、なんとか実店舗を存続しております。引き続きよろしくお願いいたします。と、まずは前置きとなりましたが、前述したように今年はシーンの動向もへったくれもない感じではありましたが、少なからず良いリリースはあり、夏以降はリリースペースも徐々に戻りつつあります。昨年から引き続き、ミニマルの流れからのエレクトロやブレイクビーツなど、4つ打ちからはみ出したサウンドが潮流の軸となりつつあり、加えてレイブやアシッド、デトロイト的スペーシーさを組み合わせたリリースが昨年よりも更に増えてきました。2ステップやガラージ、ベース・ミュージックなどを組み込んだものも多く、そこにトライバルな要素を組み合わせた作品も目立ちました。昨年からの違いとしてはトランシーなサウンドかさらに交錯するようになり、2年ぐらい前から90年代回帰と言われてきましたが、さらに拍車がかかっているように感じます。テクノ黎明期のジャンルが混沌とした雰囲気があり、ジャンルで聴き分けることのナンセンスさを感じます。
廣瀬麻美
ビームス レコーズ ショップマネージャー兼バイヤー。
店頭で接客をしながら、バイイング、販促イベントの企画などを担当しています。
"Græ"
"Me Redesenho"
直面した事の無い状況に動揺し、目まぐるしかった2020年。それでも聴き休めないのは、素晴らしい音楽のリリースが持続していたからという事に尽きます。中でも『Magic Oneohtrix Point Never』はこれまでのOPN作品に一貫する研ぎ澄まされたエレクトロニック・ミュージックを踏襲しながらも、ポップでメロディアスな要素が加わったのは“ウィルス感染したラジオ”というテーマによるところなのかもしれません。とにかく圧倒的でした。そんなOPNがプロデュースで参加していたMoses Sumney『Græ』もまた凄まじいインパクトで、世界情勢とも相まってブラックミュージックのレクイエムのように多くの人の琴線に触れていました。ソウルやゴスペルの根底にあるものを比類ないオリジナリティで昇華させた品格漂う名盤です。そして非英語圏から挙げたいのは〈Voodoohop〉の若手Numa Gamaの『Me Redesenho』。スローテクノの延長線上にありながら、ポルトガル語のヴォーカルや生楽器の響きが映える構成と桃源郷的なムードが何とも心地良い1枚です。この先の20年代に平穏が訪れる事を願いながら、日々音楽を追い、広め、分かち合えたらと思います!
高橋 央
ディスクユニオン ヒップホップ営業部
"Dinner Party"
"Swing Convention"
Covid-19により激動の1年となった2020年。
新しい生活様式によりこれまで以上に自宅などで音楽を聴く機会が増えた方も多いのではないでしょうか。
そんな世界的な非常事態の中で、しっかりとフィジカルとして手元に届いてくれた全ての音楽とそれに携わったあらゆる人々に最大の敬意を払い3枚を選盤。
ド頭から極上の融合に酔いしれて油断していると最後のヴォコーダーでトロトロに溶けてしまいそうな『Dinner Party』。
メインディッシュ並の満足度ながら"Dessert"と名付けられた別ヴァージョンも素晴らしい出来でした。(こちらは2020年12月時点では デジタルのみ)
また、個人的にはMost Underated MCの1人であるDreamvilleのBasによるビートアプローチが完璧であった「Risk」を収録した『Ylang Ylang EP』。
某動画サイトに上がっているLive Sessionも素晴らしかったです。
そして決して懐古主義に留まる事の無い、まさに"Neo 90's"たる傑作を生みだしたOXP。
改めてこの3枚と共に2020年を振り返ってみると、元通りの生活に戻りたいという潜在意識から、どこかに安らぎや古き良き時代への懐かしさを求めて聴き入っていたのかもしれません。
河原陽子
代官山 蔦屋書店 音楽フロア バイヤー
バイヤー、フェアやイベント企画
音楽というジャンルを超えて代官山から発信できたらいいなと思っています。
"Women In Music Pt. III"
2020年を振り返って、、誰もが今までに経験したことのない年でした。
お店は4、5月中旬まで休業、個人的には自粛期間中は断捨離を、昔のフライヤーを見ては懐かしく思ったり、インスタライブを見たり、来日ライブはないけれどアーティストを少し身近に感じれました。Beatinkさんのインスタライブも始まったり。
また、お家で音楽を楽しむ人が増え、アナログ・レコードやスピーカーの需要がさらに高まった気がします。お家といえば、『オフノオト』キャンペーンはコロナ禍にぴったりで素敵でしたね。中でもJon HassellやBrian Eno/John Caleのリイシュー作品は、お家時間が増えた私にとっても新しい発見でした。
Perfume Geniusの5枚目となる『Set My Heart On Fire Immediately』は自粛期間が終わろうとする頃に発売され、ドラマチックで完璧なアルバムに感動しました。Haimのサードアルバム『Women In Music Pt. III 』はちょうど夏に発売され、キャッチーで爽やかなサウンドは、フジロックに行けない代わりにLAに連れて行ってくれました。大好きなアルバムです。 その他、The Lemon Twigs『Songs For The General Public』、Sufjan Stevens『The Ascension』 、、挙げては切りがない素晴らしい作品が発売され、音楽に救われたと思います。来年も、with good musicで乗り切りたいです。
石動丸倫彦
record shop Big Love エレクトロニック部門バイヤー、パーティー「CLOWN」オーガナイズ。
"PSY X"
"Clam Day"
2020年も目まぐるしい数の良質リリースが毎日続く中、それらを超えて突出した才能が現れた1年だったように思う。
Frank OceanやTravis Scottの作品を手がけるロンドンの26歳のプロデューサーVEGYNが運営するレーベル〈PLZ Make It Ruins〉からデビューしたオーストラリアのミステリアスOTTOはオージー・インディとAPHEX TWIN的エレクトロニックを融合したようなこれまでにないスタイルを確立していて、久しぶりに感じた鮮やかな衝撃と共にこれからがとても楽しみなアーティスト。
ストリート・サイドからはロシアのButtechno。アルバム『PSY X』はこんなに格好いい音楽は後先10年は他に無いと思うほど素晴らしい仕上がり。 Actressの『Karma & Desire』もダークで美しいUK都市な世界観を完璧に表現していて何度も浸りたいような素晴らしい作品でした。 他にもCS+KREME、DJ PYTHON、GIANT SWAN等など、、、来年も沢山の音楽が聴けることを楽しみにしています。
和田貴博
大阪のレコードショップFLAKE RECORDS代表。愛称はDAWA(ダワ)。
自主レーベル「FLAKE SOUNDS」を主催し、自主イベントのオーガナイズまで仕事は多岐に渡る。「死ぬまでに行くべき27のレコードストア」にも選出されている。
"Women In Music Pt. III"
"Folklore"
2020年。自分もですが世界中の全ての人々が絶対に忘れられない年になったと思います。とんでもない1年で、生き方や行動を見直さなければいけない1年。仕事としては輸入レコードを販売、海外インディバンドの招聘を軸に生きているFLAKE RECORDSとしては海外からの荷物ストップや多数の延期、招聘は到底無理な現状など大打撃ばかりでしたが、音楽そのものには救われた気がします。延期になるものから逆に前倒しで発表されるもの、ロックダウン中だからできた作品。サブスクの瞬発力の威力や様々なアーティストや関係者による新しい音楽体験のアイデアの提示や実行力。前向きに捉えたら多彩な刺激が満載で、楽しみな未来を見せてくれたように思います。その中で印象に残った3作を。HAIMは延期アナウンスからの逆に前倒しで到着。凄く力強い作品でワクワクさせられましたし、TAYLOR SWIFTはサプライズかつ予想外なベクトルでの素晴らしい傑作で、これはコロナ禍の中だからこそ生まれた作品かと。HELLO FOREVERはそんな世界の事情とは別世界な多幸感、ハーモニーに満ちたサンシャインポップを聞かせてくれた新人で、すごく愛聴しました。兎にも角にも、2021年を楽しい未来として待ちたいです。
平山善成
サマーソニックや来日公演のPR担当。
ブッキングはインディー系全般、新人を担当することが多いです。
"Fetch the Bolt Cutters"
"UNTITLED (Black Is)"
ここまで長引くとは誰も思っていなかったでしょう。配信もちょっと飽きてきた感じがしますし、一日も早くフェスやツアーの再開を祈るばかりです。ライヴがあればもっと売れたアーティストも多かったはずです・・!
Fiona Appleは別格というか、魂の込め方が違うっていうか。今年レコードもちゃんと買った数少ないアルバムでした。Perfume Geniusは映像も含め表現者としてさらに一段階上がった気がします。6人+弦楽器編成のライヴも生で観たいですね。BLMに呼応する形でリリースされたSaultのアルバムも素晴らしかった。ちゃんと怒っていて、メッセージがある作品はやっぱり強いですね。取り上げていたメディアが少なかったのが少し残念でした。
あとはKelly Lee Owens、Oneohtrix Point Never、HAIM、Fontains D.C.、Oseesあたりも良かったです。来年はバンド系がもっと出てきてくれるのを期待してます。
9月のSUPERSONICでお待ちしてます!
平田天志
FUJI ROCK FESTIVAL、朝霧JAMのブッキング、海外、国内アーティストのライブ制作を担当。
"Fetch the Bolt Cutters"
"CATCH"
Fiona Appleが8年ぶりにリリースした今作は傑作と言われ続ける以前の作品と並ぶどころか更にキャリアを上書きするクオリティで、今年のリリースの中でもトップクラスの作品。 各メデイアが集大成的と絶賛するOPNの4th albumもジャンルを飛び越えた宇宙的大作。
Peter CottonTaleのデビューアルバムもシカゴらしいサウンドが特徴的な傑作で個人的ベストは以上の3枚。
USシーンからは、Haim、Phoebe Bridgers、Nas、Flying Lotusのインスト作品も素晴らしかった。
UKシーンからはTom Misch & Yussuf Dayes、Saultと最近盛り上がりを見せるUKジャズシーンの要素も含まれた作品が続々と出ているのも非常に面白い。
ジャズシーンが盛り上がる中リリースされたJacob Collier、Disclosureの新作も印象的であった。
昨年から今年にかけてインディーシーンの若手バンドから時折グランジ的な要素が見て取れるのも興味深く、BeabadoobeeやPorridge Radioのようなバンドが来年更に出てきそうなところも楽しみ。
いち早く来日公演が実現できることを願うばかりです。
小林大介
アート&カルチャー企画担当。今年からPARCO PRINT CENTERてのが始まりました。
"Women In Music Pt. III"
"I'll Probably Be Asleep"
1 Haim
音もセンスも良ければルックスも何だか可愛く見えてくるHaim。三姉妹の親が近所に住んでたポール・トーマス・アンダーソンの小学校時代の先生で、それをきっかけにMVを制作しているという話も非の打ちどころがない。新譜と旧譜の違いが曖昧になって来ている昨今においてとっても今年出た感のある一枚でした。全てが上等でびっくりします。Yellow Fangとタイで対バンするところが見たいです。
2 Hachiku
Hachikuを聴きながらダニエル・ジョンストンも亡くなっちゃったなあと思ったら去年でした。何がいつのことだったか混同が激しくなって来た今日この頃です。Hachikuの「Bridging Visa B」はそんな諸行無常を自然と体現しているかのように思えます。ディストーションの隙間でホトトギスが鳴いた時にはザ・ぼんちとGALLAXY 500が邂逅したのかと思いました。ルックスも本気印です。
3 Park Hye Jin
Park Hye Jinも今年のコロナとセットできっと記憶に刻まれるステイ・ホーム・チューンでしょう。音楽だけじゃなくて宇多田ヒカルのデビューMVのような自宅映像ビデオも印象的でした。808 Stateの「Pasific」ようなシンプルで強靭な作りの「Like This」は2020年、自宅フロアのアンセムだったのではないでしょうか。
おまけとして偶然にひと月に3人から紹介された日野さんのYPYの作品も紹介納得のデリケートで大胆な音楽で嬉しい出会いでした。タイトルの『551』ってテクノの機材の何かの番号なのか肉まんなのか今のところ不明。BORISとMERZBOWが一緒にやったやつもカッチョよかったです!
若林恵
黒鳥社コンテンツ・ディレクター
出版・ポッドキャスト・映像コンテンツなどをぼちぼち手がける黒鳥社のディレクター。なぜか行政府まわりから仕事の引き合いも多い。最新刊は『週刊だえん問答 コロナの迷宮』。毎日新譜を紹介するマイクロコンテンツ「blkswn jukebox」をSNSで配信中。@blkswn_tokyo
"Help"
"The Album”
Bandcampはつい先日、恒例の年末企画であった「Top 100」を今年から辞めることを発表した。自分も今年のベスト20を選ぶのにひどく苦労したので、その気持ちはよくわかる。順位をつけることにいったいなんの意味があるのか。問い自体は決して新しいものではないが、Bandcampの英断は、その「慣習」が本当は、とっくの昔に捨て去られていてもよかったものだったことを明らかにしてくれた。みんなずっともやもやしていたのだ。コロナ以前からずっとあったもやもやがコロナによって鮮明化され、捨て去るべきものを捨て去る勇気を後押しした。思えば2020年は、音楽の世界に限らず、そんなことだらけの1年だった。ちなみにBandcampは「Top 100」の代わりに「ジャンル・世代・大陸を架橋する」「新しい世界を想像する」「音もトピックもヘビー」「希望と癒し」の4つの観点から重要作を挙げ、さらに「2020年のエッセンシャル」をABC順にリスト化するのだという。それに倣って、ここでは「架橋」「新世界」「希望」という観点から3作を選んでみた。