The Mighty Upsetter
Lee "Scratch" Perry
RELEASE: 2008.05.28
ON-U SOUNDを主宰するエイドリアン・シャーウッドとリー・ペリーの共同プロダクションが遂に到着!!
これは、歴史的な作品で、間違いなく傑作!!
ここ20数年で最高のリー・ペリーのアルバムだと思うし、リディムは今の時代に合っていて、リーの歌も新鮮だ。ヴァイブスは素晴らしいし、とても生き生きしたアルバムだと思う。- エイドリアン・シャーウッド
以下:『roots rock reggae』、『定本リー・ペリー』などの監修で知られる鈴木孝弥氏によるアルバム紹介
リー・ペリーに興味を持っている人でも、正直なところ、その多くは毎回毎回彼の新作のニュースに胸を躍らせるわけではないと思う。“そこそこ”の出来の新作を聴くんだったら、今聴いてもなお強烈なインパクトを放つペリーの60?70年代の音源の中から未聴の作品を手に入れようと考えるリスナー心理も理解できる。それに、自身がスーパー・プロデューサーであるペリーが単に1パフォーマーとして他のプロデューサーと組み、ほとんどひとつのヴォーカル素材と化したような作品に物足りなさを感じるのも、昔のペリーの制作音源の凄さを知るファンにとっては自然なことだろう。
しかし、今回のエイドリアン・シャーウッドと組んだ新作はまるで様子が違う。1990年の『From The Secret Laboratory』(Mango)以来となる両者のコラボレイションだが、プロデュースしたシャーウッド自身が《ここ20数年で最高のリー・ペリーのアルバム》と語る自信のほどは、1度じっくり本作を聴き通してもらえれば合点がいくはずだ。シャーウッドが最新のインタヴューで証言していることだが、この作品にはペリーの溢れるようなアイディアがふんだんに盛り込まれている。ただ単にシャーウッド側で用意したトラックにペリーがヴォーカルを乗せたようなイージーな作りではなく、ペリーのアイディアを元にして2人でそれを膨らませ、練り上げたり、もしくはトラック自体を一緒に作ったり、あるいはシャーウッドが提案(用意)したオケに対しては、シャーウッド曰く、ペリーがパーカッションを加えるなどして〈魔法をかけて〉仕上げている。つまりは、シャーウッドのイニシアティヴによる、(クレジット上はどうあれ)実質上のシャーウッド=ペリーの共同プロダクションとして聴かれるべきものなのだ。ペリーから確かな信頼を得ているシャーウッドだからこそ、今ペリーのやりたいこと、現時点でのリー・ペリーという才能がピュアに体感できる作品というわけである。
実際、この作品では才気煥発なエイドリアン・シャーウッドと、溌剌としたリー・ペリーのみずみずしい表現力がまさしく一体化している。逆から言えば、トラックとペリーのヴォーカルとの間に不自然な隙間(歌い手とトラック・メーカー側との間の感性の質の違い)がないのだ。マイク・パフォーマンスも最高のペリーならば、トラックの音の端々にもペリーの顔が見える。そして、そのサウンドは全くもって“今”の音だ。まさにここ20数年で最高のリー・ペリーを、2008年の最新作として作品化できたのはシャーウッドの優れたプロデュース能力によるものだが、だから冒頭の彼の発言は、プロデューサーとしての自画自賛であり、しかしそれ以上に、リー・ペリーに対する紛れもない称賛なのだと思う。それくらいリー・ペリーが凄い。そして/だから、これはどう聴いても傑作である。
《収録曲について》
本作の内容でとにかく目立っているのは、楽曲としては総てオリジナル・ナンバーながら、その背景で、今なお強いインパクトを持つ70年代のペリーの素晴らしいクリエイションを、メインのトラック・メーカーにジャズワドを起用しつつ焼き直し、アップ・トゥ・デイトさせていることだ。
一聴して分かるところでいえば、LSKのヴォーカルとルーツ・マヌーヴァのラップをフィーチャーした2「International Broadcaster」では、「Blackboard Jungle Dub」のリディムをクールにリメイクしているし、続く3「Kilimanjaro」で使用されているのはシルヴァートーンズの「Rejoice Jah Jah Children」リディム。4の「Rockhead」ではデヴォン・アイアンズの「When Jah Come」リディムの上に、アップセッターズの「Bird In Hand」がコラージュされている。スイスのペリーのスタジオで作られたというこの曲などは、まさしく21世紀版『Super Ape』というべきスリリングな聴き心地だ。シャーウッド一派の仏人女性シンガー:サミア・ファラーをフィーチャーした7の「Yellow Tongue」のベースは、ジュニア・バイルズ?スーザン・カドガンでおなじみ「Fever」だし(「Fever」の曲自体は50年代のR&Bシンガー:リトル・ウィリー・ジョンのカヴァーだったが)、8の「Lee's Garden」はリロイ・シブルスのブラック・アーク後期の名曲「Garden Of Life」、といった風に、70年代のペリーが作った名リディムが続々登場し、その総てにおいてオリジナルのベースラインやリフの魅力と生命力がフレッシュに再生されている。
また、オリジナルがペリーのプロダクションではない楽曲としては、ジュエルズの「Love And Livity」のコーラス&テーマを焼き直し、同曲のリディムを使ったビッグ・ユースの「Political Confusion」にもインスパイアされた6の「Political Confusion」がある。クラシカルな70'sスタイルを忠実に踏襲しながら、重厚な4つ打ちルーツ・チューンとして新たな息吹を与える素晴らしい仕上がりだが、こういったアイディアでペリーを刺激し、新しい曲に作り上げていくエイドリアン・シャーウッドのアイディアとイニシアティヴにも敬服せざるを得ない。
そういったオールド・ファン/ルーツ・ファンをニヤリとさせるファクターがふんだんにちりばめられている他に、アルバム・オープナー「Exercising」は、ストックホルムの注目のダブ・クリエーター:ジルヴァーザフによる“インディアン・チューン”「Om Shanti」を下敷きにしていたり、他には当世を代表するジャマイカのダンスホール・トラック・メーカーの1人レンキーを起用したトラックがあったりと、大枠ではルーツ・レゲエ?70年代スタイルを基礎としながらも、実に今日的な聴き心地に仕上がっている。この“今日的”であるというポイントこそ、本作でペリーとシャーウッドが最もアイディアを傾注した部分だろう。
<リー“スクラッチ”ペリー>
1936年生まれ、レゲエ界で最もオリジナリティのあるプロデューサー/シンガー/ミュージシャン/ソングライター。
60年代初頭に名門スタジオ・ワンに入門。近代ジャマイカ音楽の創始者コクソン・ドッドの下でミュージシャン兼A&Rマンを務め、60年代後半にはジョー・ギブスなどのプロダクションでプロデュース・スキルを磨いた。この頃の自作自演曲「I Am The Upsetter」「People Funny Boy」などの成功から自己のプロダクションを興して独立。その後「Return Of Django」のヒットでイギリスでも成功し、また、メジャー・デビュー前のウェイラーズを始め、数多くのアーティストの作品を手掛けてプロデューサーとしても押しも押されもせぬ存在となった。
73年には、世界で最初にリリースされたダブ・アルバムの1枚である『14 Dub Blackboard Jungle』を制作。同年末には今では伝説と化した自身のスタジオ:ブラック・アークをオープンさせ、同スタジオを閉鎖する70年代末までの間にマックス・ロメオ、ヘプトーンズ、コンゴス、ジュニア・マーヴィンらの作品や、ダブ・コラージュ・クリエイションの金字塔『Super Ape』を筆頭とするレゲエ史に残る第1級の名作を数々産み落とした。
その後はジャマイカを離れ、アメリカやイギリスにおいてのパフォーマーとしての活動が主となった。80年代には米ワッキーズや英アリワ・サウンズなどに作品を残し、On-Uサウンドのエイドリアン・シャーウッドとも、87年の『Time Boom X De Devil Dead』で初めてコラボレイトしている。
90年代の初めにスイスに定住。それ以降今日まで、一時期短いブランクがあった以外はヨーロッパを拠点にコンスタントに作品のリリースとライヴ・パフォーマンスを行っている。
<エイドリアン・シャーウッド>
'79年に自身が立ち上げたレーベル、ON-U SOUNDを通してUKのみならずダブ・シーンを牽引してきたプロデューサー/エンジニア、エイドリアン・シャーウッド。パンクとルーツ・レゲエの融合を成し遂げ、自らのプロジェクトであるニュー・エイジ・ステッパーズ、ダブ・シンジケートをはじめ、クリエイション・レベル、アフリカン・ヘッド・チャージ、そしてオーディオ・アクティヴなど数多くのアーティストを世に送り出した。80年代中期以降には、エクスペリメンタル/エレ・ポップ/インダストリアル/ロック系にも果敢にアプローチ。ありとあらゆる要素を吸収しながら、獰猛なミキシングで未知なるサウンドへと変貌させてしまう手腕は圧巻の一言に尽きる。レゲエやダブの伝統的な手法に留まらず、実験的スタジオ・ワークやロックの要素を果敢に取り入れてゆくクロスオーヴァーなスタンスは、まさに唯一無比!ルーツに敬意を表しながらも、独自の未来志向でダブをジャンルレスに発展させた功績はあまりに偉大である。
鈴木孝弥