Coldcut x ON-U Sound
ジャマイカ移民が持ち込んだサウンドシステム・カルチャーによって、1960年代から徐々にUKに根付き始めたレゲエ・ミュージックは、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーやセックス・ピストルズのジョン・ライドンらパンクスたちの心を掴んだことによって、70年代後半以降の音楽シーンに大きな影響を及ぼしたことはよく知られている。当時の社会情勢に対する反抗的な姿勢ともリンクした大きなうねりの中で、その象徴的存在だったのが、エイドリアン・シャーウッドが1981年に立ち上げた〈ON-U Sound〉だった。エイドリアンは、その輝かしいキャリアの中で、ザ・スリッツのアリ・アップやポップ・グループを率いるマーク・スチュワート、PiL のキース・レヴィンらが集結したニュー・エイジ・ステッパーズをプロデュースするなど、当時のパンク/ポストパンク・バンドとジャマイカの伝説的アーティストを繋ぐ重要なキーマンとしての役割を果たしている。このムーブメントはいっときのトレンドでその役目を終えることなく、マッシヴ・アタックの登場をはじめ、その後の音楽シーンに様々な痕跡を残している。



この重要な時代の節目を肌で感じながら、エイドリアン・シャーウッドとはまた違う歩みを辿り、UKシーンのその後の発展に多大な影響を及ぼしたのが、コールドカットである。ターンテーブルのみで制作した87年リリースのデビュー曲「Say Kids, What Time Is It?」はその画期的なサンプリング手法が世界に衝撃を与え、同年リリースされたエリックB&ラキムのリミックス「Paid in Full (Seven Minutes Of Madsnes - Coldcut Remix)」によって、一気にその名を轟かせる。彼らはラップをレイバーたちに紹介し、またヒップホップとアシッド・ハウスを融合し、エレクトロニカやブレイクビーツといったより多様性のある分野で先駆的存在となった。90年代には〈Ninja Tune〉を設立し、〈Mo’ Wax〉主宰のジェームス・ラヴェルや、DJ シャドウらと共にトリップ・ホップやアブストラクト・ヒップホップと名付けられたムーヴメントの礎を築いていく。



ダブ、ロック、レゲエ、ダンス・ミュージックを独自のアプローチで融合させ、革新的なサウンドを追求していたエイドリアン・シャーウッドは、80年代中盤に入ると〈Tommy Boy Records〉と親交を深める中で、メリー・メルやKRS-1が活躍し、絶頂期にあった当時のNYブロンクスのヒップホップ・シーンを目の当たりにする。その時期に出会ったタックヘッドのスキップ・マクドナルドとダグ・ウィンビッシュは、ヒップホップ・レーベル〈Sugar Hill〉のハウスバンドのメンバーであり、グランドマスター・フラッシュの「The Message」や「White Lines」といったヒップホップの金字塔のリズム・セクションを担当しており、〈ON-U Sound〉の長年のコラボレーターとなった。



レゲエとヒップホップのスピリットをUKに持ち込み、それぞれが独自のキャリアを重ねる中、型破りな姿勢で繋がっているこの両者のコラボレートは、その気になればいつでも実現する可能性があった。しかしコールドカットが今年デビュー30周年を、〈ON-U Sound〉が昨年35周年を迎え、混乱の政治情勢が続くこの2017年は、彼らがコラボレートし、音楽史にまた新たな歴史を刻むにはこれ以上ないタイミングとも言えるだろう。

Coldcut x ON-U Sound

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ジャマイカ移民が持ち込んだサウンドシステム・カルチャーによって、1960年代から徐々にUKに根付き始めたレゲエ・ミュージックは、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーやセックス・ピストルズのジョン・ライドンらパンクスたちの心を掴んだことによって、70年代後半以降の音楽シーンに大きな影響を及ぼしたことはよく知られている。当時の社会情勢に対する反抗的な姿勢ともリンクした大きなうねりの中で、その象徴的存在だったのが、エイドリアン・シャーウッドが1981年に立ち上げた〈ON-U Sound〉だった。エイドリアンは、その輝かしいキャリアの中で、ザ・スリッツのアリ・アップやポップ・グループを率いるマーク・スチュワート、PiL のキース・レヴィンらが集結したニュー・エイジ・ステッパーズをプロデュースするなど、当時のパンク/ポストパンク・バンドとジャマイカの伝説的アーティストを繋ぐ重要なキーマンとしての役割を果たしている。このムーブメントはいっときのトレンドでその役目を終えることなく、マッシヴ・アタックの登場をはじめ、その後の音楽シーンに様々な痕跡を残している。



この重要な時代の節目を肌で感じながら、エイドリアン・シャーウッドとはまた違う歩みを辿り、UKシーンのその後の発展に多大な影響を及ぼしたのが、コールドカットである。ターンテーブルのみで制作した87年リリースのデビュー曲「Say Kids, What Time Is It?」はその画期的なサンプリング手法が世界に衝撃を与え、同年リリースされたエリックB&ラキムのリミックス「Paid in Full (Seven Minutes Of Madsnes - Coldcut Remix)」によって、一気にその名を轟かせる。彼らはラップをレイバーたちに紹介し、またヒップホップとアシッド・ハウスを融合し、エレクトロニカやブレイクビーツといったより多様性のある分野で先駆的存在となった。90年代には〈Ninja Tune〉を設立し、〈Mo’ Wax〉主宰のジェームス・ラヴェルや、DJ シャドウらと共にトリップ・ホップやアブストラクト・ヒップホップと名付けられたムーヴメントの礎を築いていく。



ダブ、ロック、レゲエ、ダンス・ミュージックを独自のアプローチで融合させ、革新的なサウンドを追求していたエイドリアン・シャーウッドは、80年代中盤に入ると〈Tommy Boy Records〉と親交を深める中で、メリー・メルやKRS-1が活躍し、絶頂期にあった当時のNYブロンクスのヒップホップ・シーンを目の当たりにする。その時期に出会ったタックヘッドのスキップ・マクドナルドとダグ・ウィンビッシュは、ヒップホップ・レーベル〈Sugar Hill〉のハウスバンドのメンバーであり、グランドマスター・フラッシュの「The Message」や「White Lines」といったヒップホップの金字塔のリズム・セクションを担当しており、〈ON-U Sound〉の長年のコラボレーターとなった。



レゲエとヒップホップのスピリットをUKに持ち込み、それぞれが独自のキャリアを重ねる中、型破りな姿勢で繋がっているこの両者のコラボレートは、その気になればいつでも実現する可能性があった。しかしコールドカットが今年デビュー30周年を、〈ON-U Sound〉が昨年35周年を迎え、混乱の政治情勢が続くこの2017年は、彼らがコラボレートし、音楽史にまた新たな歴史を刻むにはこれ以上ないタイミングとも言えるだろう。